夢の中で、僕は八年前のあの日に戻っていた。
事故の後、僕は毎日彼女の病室へ通った。
包帯だらけで眠る蒼の手を握り、「早く起きて、一緒に学校行こう」と泣きながら語りかけた。
そして数日後、ようやく彼女が目を覚ました時、僕は世界が輝きを取り戻したと思ったんだ。
「蒼! よかった、目が覚めて⋯⋯!」
駆け寄る僕を、蒼は不思議そうに見つめた。
その瞳には、かつての親愛も、温かな光も宿っていなかった。
「⋯⋯だれ?」
その一言が、僕のすべてを粉砕した。
「え⋯⋯? 佑介だよ。隣の家の、佑介だよ⋯⋯?」
「ごめんなさい。⋯⋯お父さん、この人だれ? わたし、しらない」
彼女は怯えたように僕から身を引いた。
事故のショックで、彼女は僕との記憶だけを、あの日々を、綺麗に削ぎ落としてしまったのだ。
命は助かった。けれど、僕の愛した蒼は、もうこの世界にはいなかった。
その瞬間の絶望が、僕を無へと変えた。
大好きだった人の瞳に、自分の姿が映っていない恐怖。
それが、僕の心を殺した真犯人だったんだ。
はっと目を覚ますと、書斎の床でアルバムを抱いたまま、僕は震えていた。
「⋯⋯思い出、した。僕は、君に忘れられて⋯⋯。だから、僕も君を消したんだ」
窓の外、春の月光が冷たく僕を照らす。
かつて僕を壊したその拒絶を思い出した今でも、不思議と蒼に会いたいという気持ちは消えなかった。
今なら分かる。
彼女が僕を忘れてしまったのは、彼女が生きるために必要なことだったのだと。
