夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



それからの日々は、驚くほど平穏に過ぎていった。
蒼が消えたあの日を境に、僕の体調は劇的に回復。

僕の顔色が良くなるたびに「奇跡だね」「本当に元気になってよかった」と口々に僕を褒め称えた。


小林先生は、僕が蒼の話を出さなくなると、周囲は目に見えて安堵した。
まるで最初から「蒼」なんて女の子は存在しなかったかのように、日常は滑らかに回り始める。


「佑介君、今日の検査結果も良好だよ。この調子なら、春には退院できるかもしれないね」


「ありがとうございます、先生」


僕は努めて穏やかに、優等生のような笑みを浮かべて答える。
今の僕は、誰から見ても「死の淵から生還した幸運な少年」だった。


朝食をしっかり食べ、リハビリに励み、空いた時間には学校の課題をこなす。
午後の日差しを浴びながら、中庭の木々を眺める。そんなのほほんとした時間が、僕の周りだけゆっくりと流れている。


「⋯⋯偽物だ」


僕は独り言のように呟いた。
この健康も、皆の笑顔も、蒼という存在を塗り潰して作られた偽物の平和に思えてならなかった。

僕は、彼女が残した青い手帳を握りしめることで、辛うじて自分を保っていた。


笑えば笑うほど、食事が喉を通れば通るほど、僕の心の中にいる蒼という存在が、遠いお伽話のように薄れていく気がして怖かった。

元気であること自体が、彼女を裏切っているような、そんな奇妙な罪悪感が、僕の影に、べったりと張り付いていた。