目が覚めた時、世界は無機質な白に支配されていた。
窓から差し込む朝日は、昨日までと同じはずなのに、どこか他人事のように冷ややかだった。
隣に、彼女はいなかった。
腕の中に残っていたはずの重みも、毛布に残っていたはずの桜の香りも、何一つとして残っていない。
僕はゆっくりと体を起こした。
呼吸が、驚くほど楽になっている。症状は嘘のように消え去っていた。
「蒼⋯⋯?」
名前を読んでも返事はない。
蒼が言った通りだった。
彼女を消すことで、僕の脳の過負荷は解消され、僕は正常に戻ったのだ。
彼女という魔法の代償として。
サイドテーブルには、僕が渡したはずの青いチェックのマフラーが、丁寧に畳んで置かれていた。
その上には、深海色の青い手帳。
僕は震える手でその手帳を手に取った。
最初の一ページ。
彼女が書いた、あの約束の文字。それを指でなぞると、まだ乾ききっていない僕の涙が、紙に小さな染みを作った。
蒼の文字は残っている。
彼女は確かに存在していたのだから。
けれど今、蒼はいない。
でも、僕は生きている。
堰を切ったように、溢れ出す涙と断末魔に近い泣き声が響き渡る。
それを聞きつけた人が、次々と部屋に入ってくる。
死ぬよりも辛い生の第一歩が、ここから始まるのだと、僕は一人静かに悟った。
