目を覚ましたことに気づいた小林先生は、一通り僕の視覚などを確認した。
「⋯⋯小林、先生⋯⋯!」
僕は掠れた声で、去り際の間際だった先生を呼び止めた。先生が驚いたように振り返る。
「どこか痛む?」
「蒼が⋯⋯蒼が、透けてるんだ。先生、なんとかしてよ!薬でも、手術でもいい、彼女が消えそうなんだ!」
僕は必死に、震える指で何もない空間――僕の目にははっきりと映っている、透けかけた蒼を指差した。
けれど、先生の瞳に映るのは、ただの空っぽのパイプ椅子と、錯乱した一人の患者の姿だけだ。
「佑介くん、落ち着くんだ。それは君の病状が完治しようとしている証拠で⋯⋯」
「病気なんてどうでもいい!彼女を、彼女を助けて!消さないで⋯⋯!」
僕は何度も何度も、叫ぶように拒絶した。
先生が差し伸べる現実を振り払い、ベッドから身を乗り出す。
点滴の管が引きちぎれそうになり、アラームが鳴り響く。
「いやだ⋯⋯いやだ、いやだッ!こんなの、認めない!」
先生は悲しげな目を向けて、静かにドアを閉めた。
彼には、僕を救うことはできても、僕の世界を救うことはできないのだ。
独りになった部屋で、僕は泣きながら蒼を見た。
彼女は、僕が彼女のために狂っていく姿を、背景の壁を透かせたまま、ただ震える唇を噛み締めて見つめていた。
その瞳には、僕への愛しさと、それ以上に深い決意が宿っていた。
