駅前を離れるにつれ、煌びやかなイルミネーションの光は遠ざかり、代わりに夜の暗幕が僕たちを包み込んでいった。
繋いだ手から伝わる体温と、まだ唇に残っている柔らかな感触。
キスの余韻が、冷たい冬の夜気に溶けて消えてしまわないよう、僕は何度も心の中でその瞬間を反芻していた。
「あ、佑介くん。あそこのコンビニ、寄ってもいい?」
蒼が指差したのは、街灯の下でポツンと明かりを灯す小さなコンビニだった。
そういえば、彼女が手帳に『一緒にお菓子を食べてみたい』と書いていた。
中に入ると、蒼は一直線にお菓子コーナーへ向かった。
「何が食べたい?」
「うーん、これ!このチョコのお菓子!」
彼女が選んだのは、赤いパッケージに入った定番のチョコ棒菓子、ショコラスティックだった。
値段は130円ほどで、マフラーを買ったお釣りは使わずに、持参の小銭を使って払うことができた。
袋を開けると、パキッという軽快な音が静かな道に響く。
「はい、佑介くんも」
蒼が差し出してきた一本を、僕は照れながらも口にした。
しれっと食べさせてくれるところが甘酸っぱい。
サクッとした食感の後に広がる、どこか懐かしいチョコレートの甘さ。
「⋯⋯甘いね」
「うん、甘いね。世界で一番美味しい気がする」
蒼はマフラーを揺らしながら、幸せそうにそれを頬張った。
お菓子は二袋入っていたので、もう一つ開けようと思ったが、蒼が「また食べるために残す!」と言っていたので、箱に戻した。
中学生の僕たちにとって、高級レストランのフルコースよりも、夜道で二人で分かち合う菓子の方が、ずっと贅沢で、ずっと心に深く刻まれる味がした。
一歩、また一歩と病院へ近づくたびに、この魔法の時間が終わってしまうような気がして、僕は彼女が食べ終えた空の袋さえ、捨てられずに握りしめていた。
