風呂上がりの湿った熱気を纏ったまま病室に戻ると、そこには予想外の光景が広がっていた。
「待っててって言ったのに⋯⋯」
苦笑いしながら、僕は声を潜めて呟く。
僕のベッドの上では、貸したばかりの黒いパーカーに身を包んだ蒼が、すやすやと規則正しい寝息を立てていた。
彼女の髪がが彼女の顔を半分ほど隠しているけれど、その隙間から覗く寝顔は驚くほど幼く、そして壊れそうなほどに白い。
僕は吸い寄せられるようにベッドの端に腰を下ろし、そっと彼女の頭を撫でてみた。
さらりとした髪の感触が指先を通り、彼女は微かに身じろぎして、僕の布団を無意識にギュッと握りしめる。
「⋯⋯蒼、起きてる?」
返事はない。
「⋯⋯これじゃ、どいてなんて言えないよ」
彼女を揺り起こす勇気なんて、最初からなかった。
心臓の鼓動が少しだけ早くなるのを感じながら、僕は椅子に腰を下ろす。
「おやすみ、蒼」
彼女の寝顔を眺めているうちに、僕の意識もゆっくりと深い闇へと落ちていった。
