二つのクロワッサンを分け合ったあとの病室には、西日が斜めに差し込み、香ばしいバターの余韻が部屋を優しく満たしていた。
お腹が満たされたせいか、それとも蒼が隣にいてくれる安心感のせいか、睡魔に襲われていた。
ベッドに横たわった僕の傍らで、蒼は椅子に座り、僕の髪をゆっくりと撫で続けている。
「⋯⋯ねえ、蒼。なんだか、すごく懐かしい匂いがする」
僕が目を閉じたまま呟くと、蒼は「そうかな?」と小さく笑った。
彼女のワンピースから漂う、桜の香り。
蒼の指先は、一定のリズムで僕の頭を撫でてくれる。その感触があまりにも心地よくて、僕は自分が中学二年生であることを忘れてしまいそうになる。
もっとずっと幼い子供に戻って、ただ誰かの保護を求めていた頃のような、無防備な安らぎ。
「蒼は、眠くないのか?」
「うーん⋯⋯。まだ眠くないかな。夜はちゃんと寝てるよ」
彼女の指が髪を梳くたび、僕は深い意識の底へと沈んでいく。
カーテンが微かに揺れる音さえも遠のいていった。
