「⋯⋯蒼は、自分が幻覚だってこと、最初からわかってたのか?」
少し落ち着いたところで、僕は喉の奥に引っかかっていた疑問を口にした。
蒼は自分の手のひらを見つめ、指を一本ずつ折るようにして動かした。
その動作はあまりに滑らかで、幻覚だなんて到底思えない。
「うん。私はね、佑介くんの心が壊れないように、脳が慌てて作ったおまじないみたいなものなんだよ」
彼女は淡々と、けれど自分自身を突き放すような冷めた声で言った。
「おまじない⋯⋯?」
「そう。あまりにも辛い現実に耐えられなくなった時、心は自分を守るために優しい嘘をつくでしょ? それが私。だから、小林先生の言ったことは正解なんだよ。私は佑介くんの脳が見せている、ただのバグ」
窓から差し込む夕日が、彼女の輪郭を透かしているように見えた。
自分がいつか消えるべき存在だと、自分自身の口から告げる彼女。
その横顔があまりにも寂しそうで、僕はかけるべき言葉が見つからなかった。
「佑介くんが元気になったら⋯⋯私は、お役御免になっちゃうの」
蒼は、笑ってみせた。
その瞳の奥には、消えることを待っているかのような、深い諦めが沈んでいるように見えた。
