夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



屋上から戻り、自分の病室のクローゼットに上着を戻した。

そこは再び、徹底的に色の排除された白の世界だった。
さっきまで見ていた屋上庭園の緑や、遠くに見えた海さえも、幻だったのではないかと思えるほどに静まり返っている。


ベッドに腰を下ろす。
僕は大きく息を吐き、シーツに身を預けた。


目を閉じると、さっきフェンスを握りしめた感触だけが掌に残っている。


ふわり、と。


閉め切っているはずの窓から、場違いな温かい風が吹き抜けた。


​「⋯⋯え?」


​顔を上げると、真っ白なカーテンが生き物のように大きく膨らみ、揺れていた。


その隙間から、ありもしない色彩が溢れ出してくる。


淡い、薄紅色の花びら。


十月の冷たい空気を塗り替えるように、窓の外から桜が舞い踊り、雪のような、けれど温かな桜吹雪が僕の視界を埋め尽くした。


その光の渦を割り、彼女はそこに立っていた。

肩まで届く、さらりとしたストレートのセミロングヘア。
淡いピンクのリネンワンピースを纏い、彼女は最初からそこにいたかのように自然な佇まいで、僕をじっと見つめていた。


透き通るような白い肌。


​「あ⋯⋯、やっと見えるようになった?」


​鈴を転がすような、どこか懐かしい声。
彼女が微笑むと、舞い落ちる花びらが、彼女の輪郭を優しく縁取った。