夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



重たい瞼を押し上げる。

視界に飛び込んできたのは、見慣れたはずの、けれどどこか余白の多い自分の部屋の天井だった。


アラームが鳴る数分前。
窓の外からは、夏の終わりを告げる蝉の弱々しい鳴き声が、湿り気を帯びた空気と共に流れ込んでくる。


体を起こそうとして、指先一つ動かすのにも、誰かに泥の重りをつけられたようなひどい倦怠感に襲われた。


最近、ずっとこうだ。
体温がどこか遠くへ逃げていってしまうような感覚。


「寝不足だな」


独り言が、誰もいない部屋に溶けていく。
階段を下りてリビングに向かうと、そこにはいつも通りの不在が待っていた。


ダイニングテーブルの上には、丁寧に畳まれた千円札一枚と、一言だけ添えられた父の書き置き。


『佑介、おはよう。急な出張が入って、三日間ほど家を空ける。冷蔵庫にレトルトのストックがあるから、好きなものを食べてくれ。無理せず、学校に遅れないようにな。 父より』



​「⋯また出張かよ。⋯⋯まぁ、いいけど。慣れてるし」


冷蔵庫から冷えた水を取り出し、一気に飲み干す。
喉を通り抜ける冷たさだけが、目覚めさせてくれる。

鏡に映る自分の顔は、自分でも驚くほどに青白い。


​「うわ、顔色やば」


一瞬、自分自身が幻のように透けて見えた気がした。