病室のドアが控えめにノックされ、先生が入ってきた。
その顔に浮かんでいるのは、先ほどまで幸一たちが振りまいていた安堵の表情とは正反対の、ひどく慎重で重苦しい色だった。
「佑介くん、体調はどうかな。⋯⋯悪いが、ご友人の方々には一度席を外してもらいたい。本人に直接、伝えなければならない検査結果があってね」
「えっ、俺たちにも聞かせろよ。佑介のことなんだからさ」
幸一が食い下がるように身を乗り出したが、島がその肩を静かに制した。
「⋯⋯行こう、幸一。先生がそう言うなら、僕たちがここにいるべきじゃない」
「でもよ、島⋯⋯!」
「いいから。外で待っていよう」
島に促され、幸一は何度も僕の方を振り返りながら、渋々といった足取りで部屋を出て行った。
バタン、とドアが閉まり、病室に二人きりの沈黙が訪れる。
窓の外を打つ雨音だけが、不自然なほど大きく聞こえ始めた。
「佑介くん。堅苦しいのは苦手でね。単刀直入に言うよ」
先生はベッドの脇に立ち、手元のタブレットに映し出された僕の脳波のグラフを見せた。
「脳のMRIと精密検査の結果だ。事故で頭を打っている可能性があったから調べたんだ。⋯⋯君が事故の直前に見た幻覚は今も見える?香りはどのくらいするかな」
「香り⋯⋯?」
確かに微かに感じていた。
けれど、この先生に話した記憶はない。
「ご友人たちが、事故の前「桜」と呟いていたのを聞いたそうなんだ。視覚も侵されるいるなら嗅覚もと思って」
侵される、そういう言い方がされる時点で僕は何かの病なのだと悟った。
