夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



八年前、すべてが止まったあの並木道。

たどり着いたそこは、ニュースで見た通り、薄紅色の桜が咲いていた。
けれど、今の僕の目に映るのは、春の陽光に照らされて力強く、けれど儚く舞い散る徒桜だった。


僕は並木道の端から端まで、彼女を探した。


すれ違う人々が、不審なものを見る目で僕を避けていく。

犬を連れた老夫婦、手を繋いで歩く親子。
僕が求めている僕を忘れたはずの少女の姿はどこにもなかった。


「どこだよ⋯⋯どこにいるんだよ、蒼」


膝をつき、激しく肩で息をする。桜の花びらが視界を遮る雪のように降り注ぐ。


もし、彼女に会えたとして、またあの冷たい目で見られたら。
僕を全く知らない、赤の他人の顔をされたら。そう思うと、足が竦んで動けなくなる。


けれど、ふと見上げた桜の枝先に、一枚の青いリボンが絡まっている幻が見えた。


『佑介くん。私がいなくなっても、あの青い手帳、捨てないでね。そこには、私が佑介くんと一緒にいたっていうことが、全部詰まっているから』


風に乗って、彼女の声が聞こえた気がした。


これは幻聴じゃない。
彼女との記憶が、僕に答えを教えてくれているんだ。


ポケットにしまっていた青い手帳をめくった。
手掛かりを探して、蒼が書いたやりたいことリストを上から順に見ていく。

『おしゃれなカフェに行ってみたい』

あの日、幻覚の彼女が書き込んだ、ささやかな願い。


この並木道の近くに、最近できたという有名なカフェがあったはず。


あの日、彼女がそれを書いたのは、単なる僕の想像だったのか。
それとも実在する彼女が今、行きたいと思っている場所が、僕に伝わったのか。


僕は立ち上がり、汗を拭った。
徒桜のトンネルを抜け、僕は確信に近い予感を感じながら、そのカフェへと走り出した。