夢幻に消えた君と、存在しない約束の続きを。



泡が浮上するように意識が現実へと引き上げられていく。


最初に感じたのは、鼻を突くような消毒液の鋭い匂いだった。


​「⋯⋯っ、う」


重たい瞼を無理やり押し上げると、視界に飛び込んできたのは、蛍光灯の光に照らされた無機質な白い天井だった。


自分の部屋でも、学校の保健室でもない。
記憶にあるどの場所とも違う、徹底的に殺風景な空間。


​「佑介! 佑介、わかるか!?」


すぐ横から、震えるような幸一の声が聞こえた。

ゆっくりと首を巡らせると、そこには顔をくしゃくしゃに歪ませた幸一と、その隣で真っ青な顔をして立ち尽くす島がいた。


「⋯⋯幸、一⋯⋯。島⋯⋯も」


「バカ野郎、マジで死ぬかと思ったんだぞ⋯⋯! お前、いきなり道路に突っ込んでいって⋯⋯」


幸一が僕の手を強く握りしめる。
その掌は驚くほど汗ばんでいて、彼がどれほどの恐怖の中にいたのかを無言で物語っていた。


​「佑介。気分はどう?どこか痛むところはある?」


島が冷静さを取り戻そうとするように、けれど隠しきれない動揺を瞳に宿して問いかけてくる。


「⋯⋯いや。どこも、痛くない。ただ、すごく⋯⋯眠いんだ」


幸一の話によれば、僕はあの後すぐに救急車で運ばれ、眠り続けていたらしい。


トラックに撥ねられ数メートル飛ばされたというのに、精密検査の結果は「全身打撲と擦り傷のみ」。
骨折すらないのは、医者も首をかしげるほどの「奇跡」だった。


「一週間の入院で済むってよ。お前、実は不老不死の幽霊かなんかじゃねーのか?」


幸一が鼻をすすりながら、いつもの調子で軽口を叩く。


「おたおめパーティー、台無しにしちまって⋯⋯ごめん」


「そんなのどうでもいいんだよ! お前が生きてるだけで十分だ。肉なんて、退院したらいくらでも奢ってやるからな!」


二人の声を聞いていると、少しずつ現実感が戻ってくる。
幸一は「祐介ぇぇ」とベッドの上に上半身を預け、すりすりと僕の頬にすり寄ってきた。