Short Story of Brass band ~吹奏楽短編~


「数2の鈴木(すずき)、課題多すぎだよな」

「わかるー。ほかの課題で手一杯なのにやめてほしい……アイスうまっ」

私たち4人はコンビニでアイスを調達し、買い食いをしていた。

「あ、あとうちの担任の話。なんだっけ?」

古崎(ふるざき)な。教壇から落ちかけた話。」

紗那と瀬名くんはⅣ組で同じクラスなので、教室での話ができてうらやましい。

「友梨佳はⅡ組だよね。なんか面白い話ないの?」

「なんかって言われても…あ、野球部の田中(たなか)って男子知ってる?あいつが古典探求の時間に『春はあげもの!』ってふざけてたことくらいしか」

紗那に話題を振られて、1週間前の出来事を引き出しの奥から何とか引っ張り出す。

「あげもの…おもしろすぎる…」

瀬名くんがちょっと俯き加減でくつくつと笑う。ツボに入ってしまったようだ。

「なんかあったなー。それで古典の青木(あおき)に『まじめにやれー!』って怒られてたやつだろ?」

御園くんも私と同じくⅡ組なので、小さな思い出を共有できてほっと安堵する。

「春は、あげものーっ‼」

紗那が棒アイス片手に、夕暮れの空に叫ぶ。

「あ、あははっ、紗那、近所迷惑だから叫ばないでよ」

息が苦しくなるくらい笑っていると、「はーるはー♪あーげーもーのー♪」と御園くんが謎の歌を歌いながら、アイスのビニール袋を持って踊り始めた。 

「はるーはー♪あーげもーのー♪」

静かに2人を見守っていた瀬名くんも、調子外れな『春はあげもの』を歌いはじめた。

息ができないほどひいひい笑いながら、それでも私は胸の奥に確かなときめきを感じた。

――高校2年生が、永遠に続けばいいのに。