翌朝。
玄関を出るときから胸が落ち着かなかった。
昨日――
家の前で
キスしそうになって
陽斗におでこを寄せられて
「今度ちゃんとする」って言われて。
思い出すたびに顔が熱くなる。
学校へ向かう足が自然と小刻みになるのを抑えながら歩いていると――
「おはよ、紬」
「――っ!」
いきなり横から声がして
振り向くと陽斗がいた。
朝の光を背にして立っていて
なんだかいつもよりかっこよく見えた。
「……お、おはよう……」
「緊張してんの?」
「べ、別に……!」
「顔赤いけど?」
「赤くないよっ……!」
「じゃあなんで目合わせてくれないの?」
「…………」
無理。
合わせたら昨日の続きみたいになってしまいそうで。
わたしがうつむいたままでいると
陽斗はふっと笑った。
「紬、昨日のこと……覚えてる?」
「っ……!」
心臓が跳ねた。
「……な、なにが……」
「ほら。約束しただろ」
「や、約束って……」
「“今度ちゃんとキスする”ってやつ」
「言わないでっ……!」
顔が一気に熱くなった。
陽斗はそんなわたしを見て、楽しそうに目を細めた。
「やっぱ覚えてんじゃん」
「べ、別に……!」
「嘘つけ。昨日あんな顔してたくせに」
「ど、どんな顔……!」
「言うと思った?」
「陽斗くん……!」
陽斗はゆっくり歩き出して
わたしと並んだタイミングで、低く囁いた。
「逃げる練習すんなよ」
「逃げてないよ……!」
「ほんと?」
「ほんと……」
「じゃ、よかった」
ほっとしたように笑う陽斗。
そんな顔を見たら
わたしの胸の中まであたたかくなった。
◆
学校に着くとき、陽斗が小さく言った。
「紬」
「なに……?」
「昨日の約束、別に今日でもいいんだぞ?」
「――っ!!」
「冗談。……半分は」
「は、半分……?」
「半分は本気」
言い終えてから
陽斗は照れ隠しみたいに前髪をかきあげた。
「なぁ紬。焦らなくていいけどさ」
「う、うん……?」
「俺、あのとき……すげぇキスしたかった」
「陽斗くん……!」
「でも紬が緊張してたから、ちゃんと待とうと思った」
声が少しだけ優しくなった。
「だから……逃げそうになったら言って」
「なんで……?」
「止めるから」
その一言に
胸の奥の不安がすっと消えた。
「……逃げない」
「じゃあ、そのうち……ちゃんとするから」
「……うん」
教室に向かう足取りは
昨日よりもずっと軽くて
でも心臓だけは重く弾んでいた。
陽斗と交わした“約束”が
今日もちゃんと胸の中に残っていた。
玄関を出るときから胸が落ち着かなかった。
昨日――
家の前で
キスしそうになって
陽斗におでこを寄せられて
「今度ちゃんとする」って言われて。
思い出すたびに顔が熱くなる。
学校へ向かう足が自然と小刻みになるのを抑えながら歩いていると――
「おはよ、紬」
「――っ!」
いきなり横から声がして
振り向くと陽斗がいた。
朝の光を背にして立っていて
なんだかいつもよりかっこよく見えた。
「……お、おはよう……」
「緊張してんの?」
「べ、別に……!」
「顔赤いけど?」
「赤くないよっ……!」
「じゃあなんで目合わせてくれないの?」
「…………」
無理。
合わせたら昨日の続きみたいになってしまいそうで。
わたしがうつむいたままでいると
陽斗はふっと笑った。
「紬、昨日のこと……覚えてる?」
「っ……!」
心臓が跳ねた。
「……な、なにが……」
「ほら。約束しただろ」
「や、約束って……」
「“今度ちゃんとキスする”ってやつ」
「言わないでっ……!」
顔が一気に熱くなった。
陽斗はそんなわたしを見て、楽しそうに目を細めた。
「やっぱ覚えてんじゃん」
「べ、別に……!」
「嘘つけ。昨日あんな顔してたくせに」
「ど、どんな顔……!」
「言うと思った?」
「陽斗くん……!」
陽斗はゆっくり歩き出して
わたしと並んだタイミングで、低く囁いた。
「逃げる練習すんなよ」
「逃げてないよ……!」
「ほんと?」
「ほんと……」
「じゃ、よかった」
ほっとしたように笑う陽斗。
そんな顔を見たら
わたしの胸の中まであたたかくなった。
◆
学校に着くとき、陽斗が小さく言った。
「紬」
「なに……?」
「昨日の約束、別に今日でもいいんだぞ?」
「――っ!!」
「冗談。……半分は」
「は、半分……?」
「半分は本気」
言い終えてから
陽斗は照れ隠しみたいに前髪をかきあげた。
「なぁ紬。焦らなくていいけどさ」
「う、うん……?」
「俺、あのとき……すげぇキスしたかった」
「陽斗くん……!」
「でも紬が緊張してたから、ちゃんと待とうと思った」
声が少しだけ優しくなった。
「だから……逃げそうになったら言って」
「なんで……?」
「止めるから」
その一言に
胸の奥の不安がすっと消えた。
「……逃げない」
「じゃあ、そのうち……ちゃんとするから」
「……うん」
教室に向かう足取りは
昨日よりもずっと軽くて
でも心臓だけは重く弾んでいた。
陽斗と交わした“約束”が
今日もちゃんと胸の中に残っていた。

