告白が終わっても
 しばらくふたりとも動けなかった。

 手はつないだまま。
 でも目を合わせるのは恥ずかしくて
 机の木目ばかり見ていた。

「……あの」

「ん?」

 陽斗が少しだけ顔を上げた。

 その瞬間
 また目が合いそうになって
 わたしは慌てて視線をそらした。

「ちょ、ちょっと……近い……」

「近くない」

「近いよ……」

「昨日のほうが近かった」

「それ言わないで……!」

 思わず机に顔を伏せたら
 陽斗が静かに笑った。

「なんで隠れんの」

「だって……恥ずかしい……」

「そっか……俺も」

 陽斗が言うのは珍しくて
 思わず顔を上げてしまう。

「陽斗くんも?」

「だってさ、紬に好きって言われたあとだよ?」

「っ……!」

「普通に無理だろ。冷静になれねぇよ」

「む、むりって……」

「嬉しすぎて」

 目をそらして言う陽斗。
 いつも自信満々なのに、こんな顔は初めてだった。

「……改めて、ありがとな」

「わたしのほうこそ……言ってくれてありがとう」

 また沈黙になって
 その沈黙がくすぐったくて
 わたしはつい笑ってしまった。

「なに笑ってんの」

「や……だって……どうすればいいのかなって思って……」

「どうって?」

「陽斗くん……もう彼氏……なんだよね?」

「うん。そうだよ」

「そうだよって……そんな簡単に……」

「簡単じゃねぇよ。むしろ……」

 陽斗は少し迷ったあと
 指先で机をとんとん叩いた。

「めちゃくちゃ意識してる」

「……!」

「紬こそ、俺のこと……彼氏って思ってくれてんの?」

「思ってるよっ!」

 勢いで言ってしまい
 言ったあとに自分で真っ赤になった。

「……かわい」

「言わないで!」

「言った。もう一回言う。かわいい」

「陽斗くん……!」

「彼女になったんだから、言わせろ」

 その一言が
 刺すように甘かった。

 気づけば、周りがざわざわし始めた。
 クラスメイトが登校してきたらしい。

「やば……教室、人来る……!」

「別にいいじゃん」

「よくないよ……!」

 恥ずかしくてわたしは席を立った。
 でもすぐに、袖をつままれた。

「紬、待って」

「え……」

「……手、もう少しだけ」

 陽斗が、机の下でそっと指を絡めてくる。

 誰にも見えない、内緒の握り方。

「これだけでいいから。あとちょっと……」

「……うん」

 ぎこちなくて
 甘くて
まだ恋人としての距離が分からない。

 でも、その不器用ささえ
 全部愛おしいと思えた。