始業前の教室は、まだざわざわしていた。
椅子を引く音
友だち同士の笑い声
廊下の足音
全部、いつもと同じはずなのに
陽斗が「話したい」と言った瞬間――
周りの音が、すっと消えた。
「春野、ここ座って」
陽斗が窓際の席を指さす。
そこは朝の光が一番きれいに差し込む場所だった。
「え、ここで…?」
「ここがいい。逃げれねぇから」
「に、逃げないよ……」
「念のため」
陽斗は笑わなかった。
笑える気持ちじゃなかったんだと思う。
緊張しているのが伝わってくる。
わたしの鼓動も早くなった。
「昨日の続き、ちゃんと言う」
陽斗はゆっくり椅子に座って
わたしと同じ高さで目を合わせた。
その瞬間
また世界の音が遠のいた。
本当にふたりしかいないみたいだった。
「春野」
「……うん」
「もうさ……耐えられない」
「え……?」
「好きなんだよ、お前のこと」
胸が、きゅっと痛くなるほど跳ねた。
陽斗の声は震えていたけど
言葉は一つも濁らなかった。
「隣の席になって、名前覚える前からさ……なんか気になってた」
「わたし……?」
「うん。静かに本読んでて、誰の話にも入らなくて。でも笑うときだけ、ちゃんと笑ってて」
陽斗は一度、息を吸った。
「その笑顔を見るたびに……勝手に、心が動いた」
頬が熱くなる。
胸が苦しくなる。
「紬が誰かに褒められたら、胸がざわついて。泣いたら、苦しくて。離れようとしたら、怖くて」
陽斗の目が、真剣に揺れていた。
「全部……恋だって気づいた」
呼吸が浅くなる。
そんなふうに思われていたなんて
想像したこともなかった。
「昨日、屋上で抱き寄せたとき……言おうと思った。でも、ちゃんとした言葉で言いたかったんだよ」
「陽斗くん……」
「紬が逃げないで聞いてくれるなら……もう言うよ」
陽斗は、机の下でそっとわたしの手を取った。
震えているのは、わたしだけじゃなかった。
「好きだよ、紬。ほんとに」
涙が、にじんだ。
気づけば、周りの音は全部消えていて
陽斗の声だけが、世界の中心みたいに響いていた。
「返事……聞かせてほしい」
陽斗の手が、わたしの手を少しだけ強く握る。
心臓がうるさくて
涙が止まらなくて
でも――
「わたしも……陽斗くんが、好き」
言った瞬間
頬を涙が伝った。
陽斗の目が、驚きと喜びで大きく揺れた。
「……ほんと?」
「うん……ほんと」
「逃げない?」
「逃げない」
「……よかった」
陽斗は、わたしの手を両手で包みこんで
額をそっと合わせてきた。
「紬……好き。めちゃくちゃ好き」
「陽斗くん……」
どこかでチャイムが鳴った。
でも聞こえなかった。
ふたりの呼吸の音しか存在しなかった。
世界が静まり返った教室で
わたしたちは、ちゃんと恋になった。
椅子を引く音
友だち同士の笑い声
廊下の足音
全部、いつもと同じはずなのに
陽斗が「話したい」と言った瞬間――
周りの音が、すっと消えた。
「春野、ここ座って」
陽斗が窓際の席を指さす。
そこは朝の光が一番きれいに差し込む場所だった。
「え、ここで…?」
「ここがいい。逃げれねぇから」
「に、逃げないよ……」
「念のため」
陽斗は笑わなかった。
笑える気持ちじゃなかったんだと思う。
緊張しているのが伝わってくる。
わたしの鼓動も早くなった。
「昨日の続き、ちゃんと言う」
陽斗はゆっくり椅子に座って
わたしと同じ高さで目を合わせた。
その瞬間
また世界の音が遠のいた。
本当にふたりしかいないみたいだった。
「春野」
「……うん」
「もうさ……耐えられない」
「え……?」
「好きなんだよ、お前のこと」
胸が、きゅっと痛くなるほど跳ねた。
陽斗の声は震えていたけど
言葉は一つも濁らなかった。
「隣の席になって、名前覚える前からさ……なんか気になってた」
「わたし……?」
「うん。静かに本読んでて、誰の話にも入らなくて。でも笑うときだけ、ちゃんと笑ってて」
陽斗は一度、息を吸った。
「その笑顔を見るたびに……勝手に、心が動いた」
頬が熱くなる。
胸が苦しくなる。
「紬が誰かに褒められたら、胸がざわついて。泣いたら、苦しくて。離れようとしたら、怖くて」
陽斗の目が、真剣に揺れていた。
「全部……恋だって気づいた」
呼吸が浅くなる。
そんなふうに思われていたなんて
想像したこともなかった。
「昨日、屋上で抱き寄せたとき……言おうと思った。でも、ちゃんとした言葉で言いたかったんだよ」
「陽斗くん……」
「紬が逃げないで聞いてくれるなら……もう言うよ」
陽斗は、机の下でそっとわたしの手を取った。
震えているのは、わたしだけじゃなかった。
「好きだよ、紬。ほんとに」
涙が、にじんだ。
気づけば、周りの音は全部消えていて
陽斗の声だけが、世界の中心みたいに響いていた。
「返事……聞かせてほしい」
陽斗の手が、わたしの手を少しだけ強く握る。
心臓がうるさくて
涙が止まらなくて
でも――
「わたしも……陽斗くんが、好き」
言った瞬間
頬を涙が伝った。
陽斗の目が、驚きと喜びで大きく揺れた。
「……ほんと?」
「うん……ほんと」
「逃げない?」
「逃げない」
「……よかった」
陽斗は、わたしの手を両手で包みこんで
額をそっと合わせてきた。
「紬……好き。めちゃくちゃ好き」
「陽斗くん……」
どこかでチャイムが鳴った。
でも聞こえなかった。
ふたりの呼吸の音しか存在しなかった。
世界が静まり返った教室で
わたしたちは、ちゃんと恋になった。

