朝倉くんが隣に座るようになって一週間。
毎朝、同じタイミングで席に着くたびに、胸の奥がちょっとざわつく。
「おはよ、春野」
今日も、変わらない声で挨拶してくる。
その自然な感じが、逆に落ち着かない。
「お、おはよう」
わたしが返すと、彼はふっと笑う。
その笑顔に、また胸がきゅっとする。
授業が始まる前
机に広げた本を読もうとしていると
「それ、昨日の続き?」
朝倉くんがページを覗き込んでくる。
「うん…まあ」
「ミステリー? 意外。春野って恋愛小説好きそうなのに」
「そ、そんなことないよ」
恋愛なんて
むしろ苦手だ
そう言いかけて言葉を飲み込む。
「俺さ、本読む女子ってなんかいいと思う」
「え…なんで」
「落ち着いてる感じ。あと、話すとさ、なんか優しいじゃん? 春野って」
そんなの、直接言われたら
どう反応すればいいの?
顔が熱くなる
心臓が速くなる
目が合わせられなくて、本の文字がぼやける
「そ、そうかな…」
「うん。そう思う」
さりげなく言うけど
その声がずるいくらい優しい
授業が始まると、少し落ち着いてくる。
黒板の字を書き写していたとき、ペンが転がって落ちた。
カタン、と床に転がったそれを拾おうとしたら
「あ、俺取るよ」
朝倉くんが、すっと手を伸ばす。
かがんだとき、ほんの数センチの距離に顔が近づいた。
息が止まりそうになる
近すぎる
今、こんな近くで見られたら顔が赤いのバレる
彼は何事もないようにペンを拾って
「はい」
「あ、ありがとう」
「春野って、持ち物大事にしてる感じするよな」
「落としただけだよ…」
「そういうところが『らしい』って話」
…らしい…
そんな風に言われるなんて思ってなかった。
休み時間、親友の茜がやってきて
わたしの机に身を乗り出して小声で言う。
「ねぇ紬、あんた最近赤くなる回数多くない?」
「え? べ、別に…」
「朝倉くんと隣になってからだよね?」
「そ、そんなことないって!」
「ふーん? まぁいいけど」
茜はニヤニヤしながら自分の席に戻っていった。
図星を刺されてさらに恥ずかしくなる。
放課後
帰り支度をしていると、朝倉くんが声をかけてきた。
「春野、これ」
「え?」
「今日のプリントもう一枚持ってる? 俺のどっかいった」
なぜか頼られてる
それが少しだけうれしい
「あるよ。はい」
「サンキュ。助かるわ」
プリントを受け取ったあと
彼は、ちょっとだけ困ったような笑顔を浮かべて
「春野ってさ…話すと落ち着くんだよね」
「お、落ち着く…?」
「うん。なんか、いい意味で」
いい意味
それだけで一日を乗り切れそうな気がした。
わたしなんか
ただの地味な子なのに
どうして彼は
こんなふうに話してくれるんだろう
分からないまま、帰り道
夕方の空を見上げて胸に手を当てた。
今日もまた、ドキドキが止まらなかった。
毎朝、同じタイミングで席に着くたびに、胸の奥がちょっとざわつく。
「おはよ、春野」
今日も、変わらない声で挨拶してくる。
その自然な感じが、逆に落ち着かない。
「お、おはよう」
わたしが返すと、彼はふっと笑う。
その笑顔に、また胸がきゅっとする。
授業が始まる前
机に広げた本を読もうとしていると
「それ、昨日の続き?」
朝倉くんがページを覗き込んでくる。
「うん…まあ」
「ミステリー? 意外。春野って恋愛小説好きそうなのに」
「そ、そんなことないよ」
恋愛なんて
むしろ苦手だ
そう言いかけて言葉を飲み込む。
「俺さ、本読む女子ってなんかいいと思う」
「え…なんで」
「落ち着いてる感じ。あと、話すとさ、なんか優しいじゃん? 春野って」
そんなの、直接言われたら
どう反応すればいいの?
顔が熱くなる
心臓が速くなる
目が合わせられなくて、本の文字がぼやける
「そ、そうかな…」
「うん。そう思う」
さりげなく言うけど
その声がずるいくらい優しい
授業が始まると、少し落ち着いてくる。
黒板の字を書き写していたとき、ペンが転がって落ちた。
カタン、と床に転がったそれを拾おうとしたら
「あ、俺取るよ」
朝倉くんが、すっと手を伸ばす。
かがんだとき、ほんの数センチの距離に顔が近づいた。
息が止まりそうになる
近すぎる
今、こんな近くで見られたら顔が赤いのバレる
彼は何事もないようにペンを拾って
「はい」
「あ、ありがとう」
「春野って、持ち物大事にしてる感じするよな」
「落としただけだよ…」
「そういうところが『らしい』って話」
…らしい…
そんな風に言われるなんて思ってなかった。
休み時間、親友の茜がやってきて
わたしの机に身を乗り出して小声で言う。
「ねぇ紬、あんた最近赤くなる回数多くない?」
「え? べ、別に…」
「朝倉くんと隣になってからだよね?」
「そ、そんなことないって!」
「ふーん? まぁいいけど」
茜はニヤニヤしながら自分の席に戻っていった。
図星を刺されてさらに恥ずかしくなる。
放課後
帰り支度をしていると、朝倉くんが声をかけてきた。
「春野、これ」
「え?」
「今日のプリントもう一枚持ってる? 俺のどっかいった」
なぜか頼られてる
それが少しだけうれしい
「あるよ。はい」
「サンキュ。助かるわ」
プリントを受け取ったあと
彼は、ちょっとだけ困ったような笑顔を浮かべて
「春野ってさ…話すと落ち着くんだよね」
「お、落ち着く…?」
「うん。なんか、いい意味で」
いい意味
それだけで一日を乗り切れそうな気がした。
わたしなんか
ただの地味な子なのに
どうして彼は
こんなふうに話してくれるんだろう
分からないまま、帰り道
夕方の空を見上げて胸に手を当てた。
今日もまた、ドキドキが止まらなかった。

