文化祭が終わって
校舎の中は後片付けの声でにぎやかだった。
「これ運んでくれたら助かる!」
「了解!」
クラスメイトが楽しそうに雑談する中
わたしはエプロンを外して、机の上のごみをまとめていた。
そんなとき――
「春野」
後ろから呼ばれた声に振り向くと
陽斗が立っていた。
いつもより真剣な目。
息が少しだけ上がっていて
わたしを探していたことがすぐに分かった。
「片付け、もういい?」
「え? まだ残ってるけど……」
「いいよ。代わりに言っとく。……来て」
「え、どこ――」
「屋上」
その言葉に、心臓が跳ねた。
陽斗はわたしの腕をそっとつかんで
周りに気づかれないように廊下へ引っ張った。
「ま、待って……怒られるよ?」
「平気。先生いねぇし」
ふたりだけが知っているみたいな口ぶりで
階段を上がっていく。
胸の鼓動が早くなるのを止められなかった。
◆
屋上の扉を開けると
夕焼けが広がっていた。
オレンジと赤が混ざった空
文化祭の喧騒がうそのような静けさ
風だけが柔らかく吹いていた。
「綺麗……」
「ここなら、誰にも邪魔されない」
陽斗がゆっくり近づく。
「陽斗くん……どうしたの?」
「話したいことある」
声が低い。
さっきまでの文化祭モードの陽斗じゃなかった。
「今日さ……」
陽斗は、手すりに寄りかかって
夕焼けを見上げた。
「春野のこと、何回好きになると思った?」
「え……」
「もう何回目か分かんねぇくらい」
心臓が止まりそうになった。
「エプロンのときも、男子に囲まれたときも、裏庭でも……全部、全部やばかった」
「陽斗くん……」
「好きって言いそうになった。何回も」
夕陽に照らされた横顔が
本当に綺麗で
本当に苦しそうだった。
「でもさ……」
陽斗はわたしのほうに向き直った。
「中途半端に言いたくねぇんだよ」
「中途半端……?」
「ちゃんと伝えたい。逃げられないところで」
「逃げないよ……」
「逃げる」
「逃げないってば……!」
陽斗は一瞬だけ笑って
すぐに真剣な表情に戻った。
「……春野」
「……なに?」
「今日、一日ずっと思ってたことがある」
近づいてくる。
距離が、どんどん近づく。
「お前のこと……誰にも渡したくない」
「……っ」
胸の奥があたたかくなって
どこか痛くなった。
「でも、まだ言わない」
「どうして……?」
「準備してから言うって約束したろ?」
「……うん」
「ちゃんと。春野の目を見て、逃がさねぇように言う」
陽斗の手が
わたしの頬にそっと触れた。
親指で涙の跡をなぞるみたいに
やさしく。
「今日は……これだけで十分だろ」
そのまま、陽斗は
わたしの頭を胸元に引き寄せた。
ぎゅっとじゃない。
包むみたいに、そっと。
でも
それが一番苦しくて
一番うれしかった。
「……陽斗くん」
「文化祭、頑張ったな。春野」
胸の上で聞こえる心音が
陽斗が本気で緊張している証拠だった。
「明日、学校……来るの楽しみにしてろよ」
「どうして……?」
「言えるかも。……言っちゃうかも」
耳元で、低く、甘く言う。
夕焼けの屋上で
ふたりの距離はほとんどゼロだった。
告白の一歩手前。
ふたりとも、そのことに気づいていた。
校舎の中は後片付けの声でにぎやかだった。
「これ運んでくれたら助かる!」
「了解!」
クラスメイトが楽しそうに雑談する中
わたしはエプロンを外して、机の上のごみをまとめていた。
そんなとき――
「春野」
後ろから呼ばれた声に振り向くと
陽斗が立っていた。
いつもより真剣な目。
息が少しだけ上がっていて
わたしを探していたことがすぐに分かった。
「片付け、もういい?」
「え? まだ残ってるけど……」
「いいよ。代わりに言っとく。……来て」
「え、どこ――」
「屋上」
その言葉に、心臓が跳ねた。
陽斗はわたしの腕をそっとつかんで
周りに気づかれないように廊下へ引っ張った。
「ま、待って……怒られるよ?」
「平気。先生いねぇし」
ふたりだけが知っているみたいな口ぶりで
階段を上がっていく。
胸の鼓動が早くなるのを止められなかった。
◆
屋上の扉を開けると
夕焼けが広がっていた。
オレンジと赤が混ざった空
文化祭の喧騒がうそのような静けさ
風だけが柔らかく吹いていた。
「綺麗……」
「ここなら、誰にも邪魔されない」
陽斗がゆっくり近づく。
「陽斗くん……どうしたの?」
「話したいことある」
声が低い。
さっきまでの文化祭モードの陽斗じゃなかった。
「今日さ……」
陽斗は、手すりに寄りかかって
夕焼けを見上げた。
「春野のこと、何回好きになると思った?」
「え……」
「もう何回目か分かんねぇくらい」
心臓が止まりそうになった。
「エプロンのときも、男子に囲まれたときも、裏庭でも……全部、全部やばかった」
「陽斗くん……」
「好きって言いそうになった。何回も」
夕陽に照らされた横顔が
本当に綺麗で
本当に苦しそうだった。
「でもさ……」
陽斗はわたしのほうに向き直った。
「中途半端に言いたくねぇんだよ」
「中途半端……?」
「ちゃんと伝えたい。逃げられないところで」
「逃げないよ……」
「逃げる」
「逃げないってば……!」
陽斗は一瞬だけ笑って
すぐに真剣な表情に戻った。
「……春野」
「……なに?」
「今日、一日ずっと思ってたことがある」
近づいてくる。
距離が、どんどん近づく。
「お前のこと……誰にも渡したくない」
「……っ」
胸の奥があたたかくなって
どこか痛くなった。
「でも、まだ言わない」
「どうして……?」
「準備してから言うって約束したろ?」
「……うん」
「ちゃんと。春野の目を見て、逃がさねぇように言う」
陽斗の手が
わたしの頬にそっと触れた。
親指で涙の跡をなぞるみたいに
やさしく。
「今日は……これだけで十分だろ」
そのまま、陽斗は
わたしの頭を胸元に引き寄せた。
ぎゅっとじゃない。
包むみたいに、そっと。
でも
それが一番苦しくて
一番うれしかった。
「……陽斗くん」
「文化祭、頑張ったな。春野」
胸の上で聞こえる心音が
陽斗が本気で緊張している証拠だった。
「明日、学校……来るの楽しみにしてろよ」
「どうして……?」
「言えるかも。……言っちゃうかも」
耳元で、低く、甘く言う。
夕焼けの屋上で
ふたりの距離はほとんどゼロだった。
告白の一歩手前。
ふたりとも、そのことに気づいていた。

