午後の部が始まって、カフェはさらに大盛況だった。
入り口には行列ができて、クラスの誰もがバタバタしていた。
「紬、これ運んでくれる?」
「うん、任せて!」
トレーを持ってテーブルへ向かったその時だった。
「ねぇ紬ちゃん、写真撮っていい?」
「えっ、写真…?」
「かわいいから記念にさ!」
「え、えっと……」
さっきも来た男子グループが近づいてきて
気づけばわたしの周りを囲むように立っていた。
「エプロン姿、マジで似合いすぎだろ」
「インスタ映えするって!」
「ポーズしてよ〜」
わたしはどうしていいか分からず
トレーを持ったまま固まった。
その瞬間――
「おい」
空気を切るような低い声が響いた。
陽斗だった。
近づいてくる足音が
やけに重く聞こえた。
「春野に近づくな」
「え、朝倉…?」
「写真も撮らせねぇよ」
声が冷たかった。
教室の温度がすっと下がった気がした。
「だって別によくね? 写真くらい――」
「よくない」
陽斗はわたしの手からそっとトレーを取り上げて
植木鉢の上に置いた。
そして、男子たちと紬の間にスッと立ちふさがった。
「春野、困ってんだよ」
「え、でも本人まだ――」
「困ってるって言ってんだろ」
陽斗の目が、鋭く光った。
普段の優しい目じゃない。
“絶対に近寄らせない”っていう、強い目だった。
「わ、分かったよ…」
「ほら行け」
男子たちは気まずそうに下がり
すぐに離れていった。
残されたわたしは
心臓がうるさくて、息が詰まりそうだった。
「……大丈夫か」
「よ、陽斗くん……っ」
「泣きそうな顔すんなよ」
陽斗はゆっくり近づいてきて、
わたしの肩に手を置いた。
「ごめん。遅れた」
「遅れてないよ…!」
「遅れた。あんなやつらに囲まれてんの、見てられねぇ」
陽斗の声は怒ってるようで
でもそれ以上に、苦しそうだった。
「紬が誰かに触られんのとか、写真撮られんのとか……嫌なんだよ」
「陽斗くん……」
「ほんとに……やだ」
その言葉は
切羽詰まった本音みたいに震えていた。
「紬はさ、誰にでも優しいだろ」
「そ、そんなこと……」
「だから余計、心配なんだよ」
陽斗は拳をぎゅっと握った。
怒りを抑えてるように見えた。
「お前……ほんと無自覚すぎ」
「無自覚……?」
「男子から見たら、今日の紬……可愛すぎんだよ」
「っ……!」
「エプロン似合いすぎ。笑顔も全部。…俺だけのもんにしたくなる」
「陽斗くん……」
「紬に近づく手は、全部払いのけたいくらい……」
言いかけて、陽斗は一度目を閉じた。
感情を抑えるみたいに、深呼吸した。
「……怒鳴ってごめん」
「いいの…陽斗くんが守ってくれて……嬉しかった」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
陽斗は一瞬だけ目を見開き
そして、そっと笑った。
「……よかった」
その笑顔は
怒りの残り火が全部溶けたように優しかった。
「紬。俺の近くにいろ」
「え?」
「頼む。今日はほんと……離れんな」
胸が熱くなった。
「うん……」
「約束」
そう言って、陽斗はわたしの手を
誰にも見えない角度でそっと握った。
大きくてあたたかくて
その強さに、胸が震えた。
文化祭のざわめきの中
陽斗の“本気”を確かに感じた。
入り口には行列ができて、クラスの誰もがバタバタしていた。
「紬、これ運んでくれる?」
「うん、任せて!」
トレーを持ってテーブルへ向かったその時だった。
「ねぇ紬ちゃん、写真撮っていい?」
「えっ、写真…?」
「かわいいから記念にさ!」
「え、えっと……」
さっきも来た男子グループが近づいてきて
気づけばわたしの周りを囲むように立っていた。
「エプロン姿、マジで似合いすぎだろ」
「インスタ映えするって!」
「ポーズしてよ〜」
わたしはどうしていいか分からず
トレーを持ったまま固まった。
その瞬間――
「おい」
空気を切るような低い声が響いた。
陽斗だった。
近づいてくる足音が
やけに重く聞こえた。
「春野に近づくな」
「え、朝倉…?」
「写真も撮らせねぇよ」
声が冷たかった。
教室の温度がすっと下がった気がした。
「だって別によくね? 写真くらい――」
「よくない」
陽斗はわたしの手からそっとトレーを取り上げて
植木鉢の上に置いた。
そして、男子たちと紬の間にスッと立ちふさがった。
「春野、困ってんだよ」
「え、でも本人まだ――」
「困ってるって言ってんだろ」
陽斗の目が、鋭く光った。
普段の優しい目じゃない。
“絶対に近寄らせない”っていう、強い目だった。
「わ、分かったよ…」
「ほら行け」
男子たちは気まずそうに下がり
すぐに離れていった。
残されたわたしは
心臓がうるさくて、息が詰まりそうだった。
「……大丈夫か」
「よ、陽斗くん……っ」
「泣きそうな顔すんなよ」
陽斗はゆっくり近づいてきて、
わたしの肩に手を置いた。
「ごめん。遅れた」
「遅れてないよ…!」
「遅れた。あんなやつらに囲まれてんの、見てられねぇ」
陽斗の声は怒ってるようで
でもそれ以上に、苦しそうだった。
「紬が誰かに触られんのとか、写真撮られんのとか……嫌なんだよ」
「陽斗くん……」
「ほんとに……やだ」
その言葉は
切羽詰まった本音みたいに震えていた。
「紬はさ、誰にでも優しいだろ」
「そ、そんなこと……」
「だから余計、心配なんだよ」
陽斗は拳をぎゅっと握った。
怒りを抑えてるように見えた。
「お前……ほんと無自覚すぎ」
「無自覚……?」
「男子から見たら、今日の紬……可愛すぎんだよ」
「っ……!」
「エプロン似合いすぎ。笑顔も全部。…俺だけのもんにしたくなる」
「陽斗くん……」
「紬に近づく手は、全部払いのけたいくらい……」
言いかけて、陽斗は一度目を閉じた。
感情を抑えるみたいに、深呼吸した。
「……怒鳴ってごめん」
「いいの…陽斗くんが守ってくれて……嬉しかった」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
陽斗は一瞬だけ目を見開き
そして、そっと笑った。
「……よかった」
その笑顔は
怒りの残り火が全部溶けたように優しかった。
「紬。俺の近くにいろ」
「え?」
「頼む。今日はほんと……離れんな」
胸が熱くなった。
「うん……」
「約束」
そう言って、陽斗はわたしの手を
誰にも見えない角度でそっと握った。
大きくてあたたかくて
その強さに、胸が震えた。
文化祭のざわめきの中
陽斗の“本気”を確かに感じた。

