文化祭が始まって、教室はお客さんでいっぱいだった。
エプロン姿のまま、オーダーを取って
飲み物を運んで
メニュー表を説明して
忙しいはずなのに
胸はずっとドキドキしていた。
「紬ちゃん、これお願い!」
「うん、いま行くね!」
教室の後ろから男子のグループが手を挙げた。
「ねぇあの子、かわいくね?」
「だよな。絶対うちのクラスじゃないよな?」
「エプロン似合いすぎじゃね?」
「あ、あの…ご注文どうぞ…!」
突然話しかけられて戸惑っていると
そのうちの一人がにこっと笑って言った。
「メニュー、春野さんって描いたの? めちゃくちゃ上手いね」
「えっ…どうして名前…」
「ロゴの隅っこに書いてあったよ。“Design:Haruno”って」
「陽斗くんが入れたんだ…」
「センスよくてびびったわ」
「すごいなー、デザインとか向いてそう」
慣れない褒め言葉に、胸が熱くなる。
そんなときだった。
「――春野」
後ろから低い声がした。
声だけで分かった。
陽斗だ。
振り向くと
陽斗は少し眉を寄せていて
明らかに不機嫌だった。
「オーダー取りすぎ。無理すんなよ」
「あ、うん…」
「あの、彼氏さん?」
さっきの男子が冗談ぽく言った瞬間
「違います」
わたしと陽斗が同時に言った。
でも陽斗の声だけ、やけに冷たかった。
「紬ちゃん、顔赤いよ?」
「えっ…あ、暑いから…!」
「そっか。じゃあまた来るわ、紬ちゃん」
「うん、ありがとう…!」
男子たちが去った後
陽斗はじっとわたしを見つめた。
「……紬ちゃん、ねぇ」
「へ…?」
「呼ばれてたじゃん。さっき」
「あ…別に気にしてないよ?」
「俺が気にしてる」
陽斗が近づいてきて
わたしの耳元で小さく言う。
「……さっきの、なんか嫌だった」
「え…」
「褒められてるのも、笑われてるのも…正直全部嫌だった」
言葉が強いのに
声は震えていた。
「陽斗くん…嫉妬…?」
「してない」
「してるよ…」
「……してるかも」
小声で認めた途端
わたしの心臓が大きく跳ねた。
「春野」
「な、なに…?」
「今日だけはさ」
陽斗は前髪をかきあげて
真剣な目でわたしを見る。
「俺の隣にいて。誰にも渡したくないから」
「っ……!」
「冗談じゃないから」
声が低くて
本気で
胸がしずかに震えた。
その瞬間、店内が少し混み始めて
陽斗がわたしの肩に手を添えた。
「ほら、行くぞ。俺がついてるから」
「う、うん…」
その日のカフェ営業は
ずっと陽斗がそばにいて
時々わたしの背中を支えてくれた。
男子客が来るたび
陽斗はわたしの前にさりげなく立って
目線を遮るみたいに守ってくれた。
気づいたら、胸がずっと熱かった。
――こんな陽斗、知らなかった。
わたしのこと
本当に、大切に思ってくれてるのかもしれない。
そう思わずにいられなかった。
エプロン姿のまま、オーダーを取って
飲み物を運んで
メニュー表を説明して
忙しいはずなのに
胸はずっとドキドキしていた。
「紬ちゃん、これお願い!」
「うん、いま行くね!」
教室の後ろから男子のグループが手を挙げた。
「ねぇあの子、かわいくね?」
「だよな。絶対うちのクラスじゃないよな?」
「エプロン似合いすぎじゃね?」
「あ、あの…ご注文どうぞ…!」
突然話しかけられて戸惑っていると
そのうちの一人がにこっと笑って言った。
「メニュー、春野さんって描いたの? めちゃくちゃ上手いね」
「えっ…どうして名前…」
「ロゴの隅っこに書いてあったよ。“Design:Haruno”って」
「陽斗くんが入れたんだ…」
「センスよくてびびったわ」
「すごいなー、デザインとか向いてそう」
慣れない褒め言葉に、胸が熱くなる。
そんなときだった。
「――春野」
後ろから低い声がした。
声だけで分かった。
陽斗だ。
振り向くと
陽斗は少し眉を寄せていて
明らかに不機嫌だった。
「オーダー取りすぎ。無理すんなよ」
「あ、うん…」
「あの、彼氏さん?」
さっきの男子が冗談ぽく言った瞬間
「違います」
わたしと陽斗が同時に言った。
でも陽斗の声だけ、やけに冷たかった。
「紬ちゃん、顔赤いよ?」
「えっ…あ、暑いから…!」
「そっか。じゃあまた来るわ、紬ちゃん」
「うん、ありがとう…!」
男子たちが去った後
陽斗はじっとわたしを見つめた。
「……紬ちゃん、ねぇ」
「へ…?」
「呼ばれてたじゃん。さっき」
「あ…別に気にしてないよ?」
「俺が気にしてる」
陽斗が近づいてきて
わたしの耳元で小さく言う。
「……さっきの、なんか嫌だった」
「え…」
「褒められてるのも、笑われてるのも…正直全部嫌だった」
言葉が強いのに
声は震えていた。
「陽斗くん…嫉妬…?」
「してない」
「してるよ…」
「……してるかも」
小声で認めた途端
わたしの心臓が大きく跳ねた。
「春野」
「な、なに…?」
「今日だけはさ」
陽斗は前髪をかきあげて
真剣な目でわたしを見る。
「俺の隣にいて。誰にも渡したくないから」
「っ……!」
「冗談じゃないから」
声が低くて
本気で
胸がしずかに震えた。
その瞬間、店内が少し混み始めて
陽斗がわたしの肩に手を添えた。
「ほら、行くぞ。俺がついてるから」
「う、うん…」
その日のカフェ営業は
ずっと陽斗がそばにいて
時々わたしの背中を支えてくれた。
男子客が来るたび
陽斗はわたしの前にさりげなく立って
目線を遮るみたいに守ってくれた。
気づいたら、胸がずっと熱かった。
――こんな陽斗、知らなかった。
わたしのこと
本当に、大切に思ってくれてるのかもしれない。
そう思わずにいられなかった。

