涙で眠れなかった夜の次の朝
目を覚ました瞬間、胸が重くて
学校へ行きたくなかった。
でも休んだら
もっと逃げてしまう気がして
ゆっくり制服に袖を通した。
教室に入ると
陽斗はもう席にいた。
いつもの「おはよう」はなくて
ただ静かに、わたしを見た。
その視線に耐えられなくて
わたしは目をそらして席に座った。
机の中の教科書を取り出す手が震える。
昨日のメッセージも
一度も開けないままだった。
なにも聞きたくなかった。
聞いたらきっと
もっと苦しくなるから。
朝のSHRが終わって
廊下に出ようとした瞬間
「春野」
腕をつかまれた。
驚いて振り返ると、陽斗が真剣な顔で立っていた。
「ちょっと来て」
「や、やだ…」
「またそれ?」
低い声に、胸がきゅっとなった。
「逃げるなよ。俺から」
「逃げてなんか…」
「昨日、泣いてたよな」
心臓が止まりそうになった。
「な、なんで…」
「聞こえたんだよ。家の前まで行ったとき」
「……っ」
息が詰まった。
知られたくなかった
絶対に言われたくなかった
「なんで泣いてたの。俺のせいだろ」
「違う…!」
「違わねぇよ」
陽斗の声が少しだけ荒くなる。
こんなの初めてだった。
「俺さ、ずっと言おうとしてたんだよ」
「……なにを?」
「春野の気持ちが分かんないままで、近づくのが怖かったってこと」
「……陽斗くん」
「でもさ、昨日の春野見て…余計分かんなくなった」
「わたしのせい…?」
「違う」
陽斗は深く息を吸って
ゆっくり言葉を続けた。
「春野が泣くくらいなら、ほんとは近くにいたい。でも…手を伸ばしても逃げるだろ?」
「逃げてない…」
「逃げてるよ」
図星だった。
胸がずきんと痛くて
言い返せなかった。
「なんで、俺を避けた?」
真正面から問われて
声が震えて出なかった。
「わたしなんか、陽斗くんに迷惑でしかないよ…」
「は?」
陽斗の目が大きく揺れた。
「迷惑? いつ俺がそんなこと言った?」
「言われてなくても…わかるよ…」
「分かんないよ」
陽斗は一歩、わたしに近づいた。
「春野が勝手に決めんなよ」
胸がつぶれそうだった。
でも逃げられない距離まで来ていた。
「俺…春野を迷惑なんて思ったこと、本当に一回もないから」
「ほんとに…?」
「ほんと」
その一言に、涙がにじんだ。
「じゃあ…わたし、どうしたらよかった…?」
「それを一緒に考えたいんだよ」
陽斗の声が震えていた。
わたしなんかのために震えている。
「春野。逃げられんの、俺もう嫌だ」
そう言って
陽斗はそっと、わたしの手首を握った。
昨日と同じ場所
でも温度が違った
強さが違った
思いがこもっていた
「……泣くなよ」
優しく言われて
余計に泣きそうになった。
このすれ違いは
まだ終わっていない
でも――
やっと心が触れた気がした。
目を覚ました瞬間、胸が重くて
学校へ行きたくなかった。
でも休んだら
もっと逃げてしまう気がして
ゆっくり制服に袖を通した。
教室に入ると
陽斗はもう席にいた。
いつもの「おはよう」はなくて
ただ静かに、わたしを見た。
その視線に耐えられなくて
わたしは目をそらして席に座った。
机の中の教科書を取り出す手が震える。
昨日のメッセージも
一度も開けないままだった。
なにも聞きたくなかった。
聞いたらきっと
もっと苦しくなるから。
朝のSHRが終わって
廊下に出ようとした瞬間
「春野」
腕をつかまれた。
驚いて振り返ると、陽斗が真剣な顔で立っていた。
「ちょっと来て」
「や、やだ…」
「またそれ?」
低い声に、胸がきゅっとなった。
「逃げるなよ。俺から」
「逃げてなんか…」
「昨日、泣いてたよな」
心臓が止まりそうになった。
「な、なんで…」
「聞こえたんだよ。家の前まで行ったとき」
「……っ」
息が詰まった。
知られたくなかった
絶対に言われたくなかった
「なんで泣いてたの。俺のせいだろ」
「違う…!」
「違わねぇよ」
陽斗の声が少しだけ荒くなる。
こんなの初めてだった。
「俺さ、ずっと言おうとしてたんだよ」
「……なにを?」
「春野の気持ちが分かんないままで、近づくのが怖かったってこと」
「……陽斗くん」
「でもさ、昨日の春野見て…余計分かんなくなった」
「わたしのせい…?」
「違う」
陽斗は深く息を吸って
ゆっくり言葉を続けた。
「春野が泣くくらいなら、ほんとは近くにいたい。でも…手を伸ばしても逃げるだろ?」
「逃げてない…」
「逃げてるよ」
図星だった。
胸がずきんと痛くて
言い返せなかった。
「なんで、俺を避けた?」
真正面から問われて
声が震えて出なかった。
「わたしなんか、陽斗くんに迷惑でしかないよ…」
「は?」
陽斗の目が大きく揺れた。
「迷惑? いつ俺がそんなこと言った?」
「言われてなくても…わかるよ…」
「分かんないよ」
陽斗は一歩、わたしに近づいた。
「春野が勝手に決めんなよ」
胸がつぶれそうだった。
でも逃げられない距離まで来ていた。
「俺…春野を迷惑なんて思ったこと、本当に一回もないから」
「ほんとに…?」
「ほんと」
その一言に、涙がにじんだ。
「じゃあ…わたし、どうしたらよかった…?」
「それを一緒に考えたいんだよ」
陽斗の声が震えていた。
わたしなんかのために震えている。
「春野。逃げられんの、俺もう嫌だ」
そう言って
陽斗はそっと、わたしの手首を握った。
昨日と同じ場所
でも温度が違った
強さが違った
思いがこもっていた
「……泣くなよ」
優しく言われて
余計に泣きそうになった。
このすれ違いは
まだ終わっていない
でも――
やっと心が触れた気がした。

