運命の人 ~何度、生まれ変わっても~ 【全年齢版】




 数えられないほど太古の昔

 私たちは大きなエネルギーから生まれた


 そのエネルギーの正体は誰にもわからない

 けれど誰かが名付けた

 その名が神だった


 神は死なないのではない

 常に生まれ続けているんだ


 何もないところから始まった

 すべては無だった

 私たちは何もないところから生まれた

 ここには何もなかった

 今だって何も持ってなどいない


 すべては0から始まり

 いつか0へ還る

 そして0たちがくっついて

メビウスの輪を形成する





 駅の階段を昇っていたら、前を歩く女性のポケットから、白いハンカチが落ちた。
 風にふわりと舞って、俺の足元に落ちる。
 何気なく拾い上げて、目を落とした瞬間、息が止まった。

 フィリックスの刺繍。
 懐かしい。けれど、なぜ懐かしいのかがわからない。
 ただ、胸の奥がざわついた。

 俺はそのまま階段を駆け上がった。
 彼女の横に並び、声をかける。

「……あの、落としましたよ」

 振り返った彼女の顔を見た瞬間、時間が止まった気がした。
 どこかで、会ったことがある。
 夢の中か、もっと遠い記憶の中か。
 でも、確かに知っている気がした。

「ああ、ありが──」

 彼女が言いかけたとき、俺は思わず訊いていた。

「……前に会ったことない?」

 彼女の目が一瞬、揺れた。
 でもすぐに、冷たい声が返ってきた。

「ない。こんなところでナンパ? やめてよ」

 ハンカチを奪うように受け取って、彼女は足早に去っていった。
 俺はその背中を見送るしかなかった。
 何も言えず、ただ、胸のざわめきだけが残った。



 電車に乗り込んで、スマホを見ていた。
 さっきのことが頭から離れない。
 あの顔、あの声、あの刺繍。
 何かを思い出せそうで、でも届かない。

 ──バンバンッ!

 突然、窓が叩かれる音。
 顔を上げると、そこに彼女がいた。
 さっきの女性。
 息を切らしながら、何かを叫んでいる。

「私もどこかで会ったことある気がする!  すごく大事な人だったみたい!  お願い、戻って! 待って、行かないで!」

 声は、よく聞こえない。
 でも、唇の動きでわかった。
 その言葉が、胸に突き刺さる。

 俺は立ち上がった。
 でも、もう遅かった。
 電車は動き出し、彼女の姿が遠ざかっていく。



 次の駅で降りて、すぐに折り返した。
 理由なんていらなかった。
 ただ、もう一度会わなきゃいけない気がした。

 ホームに戻ると、彼女はベンチに座っていた。
 肩を落とし、顔を両手で覆っている。
 泣いているのかもしれない。
 俺はゆっくりと歩き出した。

 電光掲示板が、静かに文字を流していた。

 ~「今度こそ添い遂げよう」~

 電車がホームに滑り込んでくる。
 彼女の姿が車体に隠れた。
 もう1度、会いたい。
 俺は彼女のいるホームを目指して、階段を駆け上がった。

 ──いや、何度でも探そう。
 この腕に包み込むまで。


 ♪Voyage 浜崎あゆみ