日日是好日を望む

 誕生日といえばケーキだろうと安直な理由でスイーツコーナーに来たが、後輩(リンネ)の好みを知らない事を失念していた。母のように今食べたい物じゃないと泣き叫ぶ事はしないだろうし、アレルギーもなかったはずだとグズグズ悩んでいたら、こんな時に限って家族や女性グループが次々と商品を籠に入れていって、割引の貼られたケーキを買うワケにもいかず慌てて手に取ったのはミルフィーユだった。スイーツだがケーキではないし、もし渡して微妙な顔されたら我慢して食べてなかった事にすればいい。
 誕生日が近いからと差し出したスーパーのスイーツに、隣のドラッグストアで買い物を終えた後輩は目を輝かせた。先週視聴覚室で鑑賞した海外レースのDVDを前にしたような勢いに、安堵よりも罪悪感が湧く。専門店のケーキの方がよかったかと思わないでもないが、この辺りにあるケーキ屋は母のヒステリーが原因で出禁になっている。かといって探す範囲をこれ以上広げれば勘付かれる。
 女性と大半の女性が好みそうな物に苦手意識を抱くナギがそれでも後輩女子の為に動くのは、ナギの羞恥と苦悩に彩られた過去が、彼女と過ごす事で「まあ過ぎた事だから」と割り切れるようになるからだ。友人からそれは恋だと言われるが、ナギは認める事はできない。恋愛感情だと認めて、若い頃の恋に狂い続けている母の二の舞になりたくないから。
 本来ミルフィーユは横に倒して食べるのが効率のいい食べ方らしい。しかし都合よく平皿など用意しているはずもなく、後輩は懸命に丁寧に食べ進めるがパイの欠片を溢して何割かは鳥や蟻に差し出す羽目になっていた。無糖の紅茶を飲みながら、何年かぶりの異性との食事にナギは僅かに頬を緩めた。