急に俺が真剣な低い声を放ったからだろう。
 
 お姫様抱っこで俺の腕に包まれている若葉が、恐る恐る視線を絡めてきた。

 この恋心が若葉のハートに届きますように。

 表情を引き締め、甘く揺れる瞳で若葉を見つめる。



「若葉を絶対に幸せにする。だから俺と付き合って」



 俺の告白を聞いて、両手で顔を隠した若葉の感情が読めない。

 顔をぶんぶんと左右に振っている。



「俺とは付き合いたくないの?」



「違う、そうじゃなくて!」と焦り声をあげた若葉は、俺の首に腕を絡めてきた。

 肩に沈み込む若葉の頬の熱が心地いい。



「僕が甘音くんを幸せにしたいの! 僕が恋人でよかったって思ってもらいたいの! 頑張るからね、ずっと甘音くんの隣にいられるように」



 フフフ、こんな幸せでいいのかな。

 悪いことが起きる前兆じゃないよね。


 テントの中に置きっぱなしのクリームメロンソーダの氷が、カランと音を立てた。

 バニラアイスが溶けることもメロンソーダの炭酸が抜けることも忘れ、俺は若葉と恋人になれた幸せに浸っていたんだ。



 ――それから1か月後。



 本当に悪いことが起きた。
 
 俺は地獄に突き落とされてしまった。



 「僕の恋人は紅亜(くれあ)くんだよ」



 若葉の記憶の中から、俺たちが付き合っていた幸せな1か月がまるまる消え去ってしまったなんて。