慌ててカバンからスマホを取り出す。
何かにとりつかれたように指で数字を選ぶと、画面ロックが解除された。
記憶がなくなって初めてだ、開けなくなっていた自分のスマホの中身をのぞくのは。
呼吸すら忘れメッセージアプリのアイコンをタップする。
未読の数がダントツに多い甘音くんからのメッセージを開いてみた。
指で勢いよくスクロールして過去に戻り、一文ずつ脳に送り込む。
僕がスマホにくぎ付けの間、隣に立つ紅亜くんは一言もしゃべらなかった。
重いため息だけが耳に届いたが構ってはいられない。
視覚のみに集中して文字を目に焼き付けていく。
何かがこみあげてきた。
それはけして綺麗とはいえない、マグマのように熱くドロドロとした醜い感情そのもの。
読み進めるたびに、紅亜くんへの不信感が募ってしまう。
失っていた記憶は、欠けたピースがはまるように脳内で次々に埋められていく。
全てを思い出したと自覚したころには、悔しさで握りしめたこぶしの震えが止まらなくなっていた。
記憶喪失になる前、僕は甘音くんと付き合っていた。
狭いテントの中、メロンクリームソーダのバニラが溶けだす中、勇気を振り絞って子供のころからの想いを甘音くんに伝えた。
お姫様抱っこをされた。
甘音くんも僕を好きだと言ってくれた。
一方通行だった恋心に甘音くんからの赤い糸が絡みついて、初恋が実った幸福感で涙が出そうになって。



