『彼氏に抱きしめられているだけ。恋人同士なんだから当たり前の行為』
と心臓に言い聞かせるも、早鐘を打つスピード勝負中の僕の心臓は、肌から逃げ出しそうな勢いでバコバコと飛び跳ねている。
いきなりのゼロ距離は心臓に悪いよ。
ここは外、放課後の帰り道、周りに同じ制服を着たうちの生徒がいないとはいえ、たまに車が僕たちが立ち止まっている歩道の横をビューンと通り過ぎていくわけだし。
「……紅亜くん」と弱りながらつぶやいたのは、せめて人目につかないところに行こうよと言いたかったから。
「急に名前を呼ぶな」
「え?」
「爆弾を落とすな、俺の心臓を過信するな」
照れ声を茜空に突き刺しながらも、紅亜くんは僕を優しく抱きしめてくる。
爆弾がなんのことかわらかない。
紅亜くんだって、僕の心臓を過信しないでほしい。
僕は人と付き合うのが初めてなんだ。
ドキドキに耐えうるメンタルトレーニングなんか積んでこなかったんだから。



