若葉は上目遣いで俺を見た。
恥ずかしそうにはにかみ笑いをうかべている。
覚悟を決めたようにこぶしを握りうなづくと、芯のある声で言い切った。
『僕の恋人は紅亜くんだよ』
頭が真っ白になった。
君の恋人は俺のはずでしょ。
若葉の両肩に手をかけ、頭をオーバーに揺すりたくなった。
荒々しい行動に出なかったのは、病室に来る前に寄ったナースステーションで言われたから。
『面会はできますが、患者さんを混乱させるような言動はしないように』と。
深呼吸をして、取り乱しそうな心を落ち着かせる。
ベッドサイドの椅子に座り、体ごと若葉の方を向いた。
若葉いわく、目が覚めたら病院のベッドの上にいたらしい。
直前の記憶を全く思い出せず、付き添っていた先生や紅亜が教えてくれたことを俺に話してくれた。
救急車が全て出動している状況で、階段から落ちて目を開けない若葉を先生が車で総合病院まで運んだこと。
事故の瞬間を見ていた紅亜が、医師への説明要員として同行したこと。
若葉は階段から落ちた覚えがまったくなく、この2か月くらいの記憶が丸ごと消え去っているんだとか。



