「ああ、知ってるよ」と腕をほどいた俺の顔から、一切の笑みが消えた。
甘音の失恋の痛みを正確にくみ取れるのは、若葉に嫌われた俺だけか。
同情心が沸き、真剣な表情で甘音の声に耳を傾ける。
「記憶をなくした若葉は俺と付き合っていたことまで忘れちゃって……若葉の恋人は俺なんだよって真実を伝えて紅亜から奪いたかったけど……怖くてたまらなくて……」
若葉のためだよな。
記憶が混乱しないように身を引いたんだよな。
「ほんと優しさの塊だよ、俺の兄上様は。自分の欲求よりも好きな相手のことを気遣ってさ。オマエは自分を犠牲にして人のために尽くせるっていう慈悲があるんだから、将来は七福神でも目指せば。八番目の神になって苦しむ民を救いたまえって」
冗談を飛ばしたのは、重ぐるしい空気を消し去りたかったから。
ちょっとでも甘音の気持ちが楽になればいいと、俺らしくもない慈悲が芽生えたってのもあるけど。
でもそんなんじゃ甘音の悲しみはぬぐえないらしい。
「違う、俺はそんな優しい男じゃない!」
真横から突き刺さったのは、涙を飛ばしながらの怒鳴り声だった。



