嵐のあとの綺麗な空

車が停まったのは、街で一番有名な夜景スポットだった。

「ここ、好きなんだ」
颯太がエンジンを切ってそう言った。
外に出ると、冷たい風と目の前に広がるキラキラが一気に押し寄せてきて、思わず息を呑んだ。

「すごい……」
声が漏れた。
まるで星が地面に落ちてきたみたいだった。

颯太はポケットからスマホを出して写真を撮りながら、ぽつりと呟いた。
「地元離れていたときも、ここだけは忘れられなかった」

私は何も言えずに、ただ夜景を見ていた。
綺麗すぎて、なんだか胸が締めつけられた。

だってこんな景色を、
こんな優しい声の人と一緒に見てるなんて、
私には贅沢すぎるって、どこかで思ってたから。

「寒くない?」
突然かけられた声にびくっとしたら、
いつの間にか颯太が自分のジャケットを私の肩にかけてくれてた。

指先がちょっと触れただけで、冷たかった。
でもジャケットは温かくて、颯太の匂いがした。

「……ありがと」
小声で言ったら、
「いいよ」ってだけ。
笑いもしない。
それがまた、なんか遠くて。

夜景よりそっちに目がいっちゃって、
慌ててまた前を向いた。

帰りの車の中は、
さっきより沈黙が長くなった。

勇気を出して聞いてみた。

「なんで、私を誘ってくれたの?」

しばらく黙ってから、颯太がぽつり。

「……なんか、乗って欲しかったから」

それだけ。
でもその一言が、私の心に火を灯した。

家に着いて、降りようとしたとき、
颯太が初めて私の名前を呼んだ。

「凪咲ちゃん、LINE教えて」

恥ずかしくて顔を赤くしながら、
「……仕方ないから、いいよ」って答えた。

「なんだそれ」
颯太は笑った
そして、連絡先を交換した。

走り去るテールランプを見ながら、
確信した。

この人、私の日常を絶対に壊してくれる。
そして私は、それをどこかで望んでいたんだって。