甘々とロマンス中毒

“できないよ”や“演技したことないもん”など、それなりの理由でお断りを入れたものの、千花くんは一歩も引き下がることはなかった。

———うん。やっぱり、一咲ちゃんがいい

———(……私でいいの?)

猫目を柔らかく細めて、笑みを残す千花くんがずっと脳裏に焼き付いてる。

𓈒 𓏸𓈒𓂂𓂃♡

最寄り駅に着いたのは正午を回った頃でした。

旅行用に新調した小さなキャリーバッグと両手にお土産を提げ、人混みで溢れる騒がしい改札を出た。

遊び疲れてくたくたである。ぎゅうぎゅう詰めの電車はやっぱり慣れなくて。

体が身軽になった瞬間、一息つく。ふ~~と吐いた息に合わせて肩の力も抜ける。


「一咲ちゃん、大丈夫?疲れたよね、持つよ」

お土産がふたつ、右手から離れた。左手の大きな紙袋もするりと指先から解ける。

千花くんが屈んで私を覗き込んだ。

「……スミマセン。ありがとう」

「いーえ」

「千花くんもこっちなの?降りる駅、もう少し後だったよね?」

美羽ちゃんと同じ二つ前のはずだけど。
ゆらり。首を傾げた。

「これから、菖の家行ってゲームすんの」

「ヘエ〜〜〜そうなんだ。なんてゲーム?(二人とも元気……す、スゴイ……私はへとへとなのに)」

「スプラ。と、マリオもするかな」

「エッ。ふたつとも知ってる!」

「ほんと?一咲ちゃんもゲームするんだ」

「ハイ。すぷらはやったことないけど、マリオは何回かあります」

涼しげな横顔が私を見つめた。
「そう」と色のない声が喧騒する街中に転がる。

「コントローラーの使い方が難しいんだよね〜。いっつも負けちゃうの。この間だって、四回戦もしてダメだった(あやちゃん強いもんなぁ。今度、お兄ちゃんと一葉に練習付き合ってもらお!)」


唇の端がへらりと緩んだ。