甘々とロマンス中毒

言った。後悔はない。いずれ挨拶するときがくるのだから、早いに越したことはない。隠すのは良くないだろう、と考えに耽た直後。

一瞬、たじろいだ父親を目に留めてしまう。

うわ、順番間違えたわ。仕草にしないものの頭を抱えた。

居た堪れなくなった末、前髪を掻いて視線をそらすと「あやみくんさあ」凛とした声に呼ばれる。外した視線をゆっくり一点に定めた。


「うん。知ってる。遅かれ早かれ、こうなることは予想してたから」

「……そう、でしたか」

「わかるよ。だって、一咲、かわいいもんね〜〜」

悪態のひとつでも吐かれると覚悟してたのに、揶揄われる始末だ。くそ、やられた。

︎︎𓂃⟡.·

大きな一軒家を後にする。「お邪魔しました。おやすみなさい」と会釈する俺に、父親はひらりと手を振る。勝ち誇ったような、満面の笑みで「おやすみ」と返された。

帰路に着くと、蒸せる夏風が肌に纏わりつく。駅に近づくにつれ、多くなる人の流れと騒音に眉根を寄せた。

一咲と外で会うときは、今度から車を出そうと決める。

ヴヴ…。ズボンに押し込んだスマホが震えた。通知がひとつ、ふたつ表示される。
指先で触れる《いさく》の文字に立ち止まり、LINEを開いた。

《今日はありがとう☺️✨ラーメンもクレーンゲームも、あやちゃんと一緒で楽しかったです》
《おやすみなさい》

読み終わると、途端に一咲への愛おしさが込み上げた。

俺の方こそ、ありがとう。おやすみ。

返事をしてから、ふと俯く。
街路灯に照らされた胸元のシャツに色付いた淡いピンクが揺らめいた。一咲から移った可愛らしいしるし。

「ああ。洗わなきゃな」

もったいないけど。と、付け足して再び歩き始めた。