君との出会いは可か不可か

学校に着くと、教室の雰囲気がいつもと違った。

普段ならわりとざわざわしている教室内。それが今日はしんと静まりかえっていて、ひそひそ話す声が少し聞こえる程度。

(……?)

小首を傾げながらも、自分の席についた。

隣の席の伊織くんにちらりと視線をやると、あることに気がついた。

……あ。

伊織くんの周りに、今日は人がいないんだ。

いつもなら、クラスメイトの何人かが伊織くんの机を囲って話しているのに、今日は違う。

私は伊織くんの肩をぽんぽん、と軽く叩いた。

『おはよう。一人なの、珍しいね』

伊織くんにノートを見せた、そのときだった。

(!?)

とつぜん、両肩を後ろに引っ張られる。

振り向くと、クラスのリーダー格の女子がにっこりと微笑んでいた。

……悪い笑顔だ。

「華深ちゃん、あのね、こいつとは関わらない方がいいよ」

『なんで?』

「え〜だってぇ……」

リーダー格の女子は、周りの取り巻きと顔を見合わせ、くすくすと笑い合った。

この人たち、今までは伊織くんと仲良くしてたのに……。

「だって伊織、犯罪者の息子なんだもん!」

……え?

私は伊織くんに視線をやる。

伊織くんはけろりと笑っていた。

「そーだぞ華深。俺は犯罪者の息子だから、関わんねー方が身のためだ」

伊織くんはそれまで読んでいた本をパタリと閉じて、スクールバッグにしまった。

そして、まだ朝のホームルームも始まっていないというのに、

「帰るわ」

と言って教室から出て行った。

「華深ちゃん、あのね。こんな時期に転校してくるやつは何か事情があるに違いないって、私のパパが言ってて。それで色々調べてたら、ネットで見つかったの。この記事」

こんな時期に転校してきたってのは私も一緒なんだけどな……と心の中でツッコむ。

リーダー格の女子が私にスマホの画面を見せてきた。

じっと目を凝らす。

ニュースの記事だ。

内容を読んでみると、確かに事件が起こった場所は伊織くんが前住んでいたと言っていた地域と同じだったし、殺人犯の苗字も伊織くんと同じ「富山」だった。

(……ッ)

私はスクールバッグを肩にかける。

伊織くんを追いかけて、教室を走って出た。



***



『やっぱりここにいた』

はぁはぁ、と息を切らしながら、私はノートを伊織くんに見せた。

伊織くんがブランコを漕ぎながら言う。

「なんで追いかけてきたの」

なんでって……。

『伊織くんは、友達だから』

ぷはっ、と伊織くんが笑う。

「華深は変わってるなー。普通、犯罪者の息子って知ったら、縁切らない?」

私はきっぱりと首を横に振る。

『伊織くんのお父さんがしたことは、伊織くんには関係がない』

「……はは。華深は、名前だけじゃなくて考え方も珍しいんだな」

『普通だよ。おかしいのは皆の方』

伊織くんが、おいで、と言った。

私がもう一つのブランコに腰掛けると、途端、伊織くんは放物線を描くようにブランコから飛び降りた。

危ない、と咄嗟に言えない自分の体を恨んだ。

失声症って、こういうときに不便だ。

「華深はどうして華深って言うの」

きょとんとする私。

しばらくして、名前の由来を聞かれているのだということに気づく。

『可能も不可能も、愛せるように。を、略してカフカ』

「へー、かっこよ!やっぱりいい名前だ」

伊織くんの顔は、日の光の逆光でよく見えない。

でもその声色は怖いくらいに優しくて、きっと微笑んでくれているのだろうと分かる。

「可能も不可能も、愛せるように、か」

伊織くんが、ブランコを囲う柵に腰掛けながら、そうつぶやいた。

私はなんだかすこし恥ずかしくて、ブランコのチェーンをきゅっとつかんだ。

『私は何が合っても伊織くんの味方だよ。伊織くんが私の味方でいてくれたように』

「……はは」

そう、私が失声症だと知りながらも、私となかよくしてくれたのは、伊織くんだけだった。

だから、今度は私がきみの力になろう。

そう、決めた時だった。

ふと強い風が吹き、

砂埃がたちこめる。

その砂埃が伊織くんの足元のシルエットを曖昧にして、まるで映画のワンシーンのようで。

そんな中、伊織くんは言った。

初めて出会った日、私の名前を初めて呼んだときのような、ひどく優しい声色で。



「華深は、本当の殺人犯が俺の父親じゃなくて、俺だったとしても、俺と友達でいてくれる?」



私は顔を上げる。綺麗な切れ長の瞳と目が合う。

私はノートにボールペンを滑らせる。

そして、こう答える。

『     』と___。