彼氏が欲しい。
いじめられたくない。
みんなから一目置かれたい。
そんなことをぼんやりと思いながら、何の努力もせずに夏休みを過ごしていると、スマホにメールが着ていた。
『あんたのことを思って夏休みにバイトを入れておいてあげたよ』
姉は地元の市役所で働いており、部活も勉強も学校生活もイマイチなわたしを心配して、こうしてお節介をしてくれる。
「あのー、ここに住んでいる中村平子(なかむらひらこ)さんはいらっしゃいますか?」
謎の声。若い女性の声にびっくりした。
平凡な女子中学生のわたしは玄関のドアを開けるが、そこには誰もいない。
「そこじゃありません。ここですよ。ここ」
部屋の中から声がする。気づかれずに中に入ったのか?
怖くなる。
まさか、お化け?
そもそも夜中の9時だ。家には誰もいない。父親はおらず、母親も滅多に家に帰ってこない家庭。
小学生の頃は寂しくて泣いていたが、今では好きなだけスマホがいじれて、楽しいし、思春期の女子としては、一人の方が気楽だったりもする。
「からかってないよね。まさかイタズラ?」
「違いますよ。スマホを見てください」
スマホの中には、女性が映っていた。
「あなたが今回の企画の参加者ですね」
姉と同い年くらいのスーツ姿の女性は抑揚のない声で淡々とわたしに話しかけてくる。
それが、逆に会話しやすい。何故なら、わたしは他人と話すことが苦手だからだ。
「企画ってなんですか?」
「小学校の勉強もまともにしていない子供がどこまで成績を上げられるのか、という企画です」
そういえば、そういう企画をテレビやネットで見たことがある。芸能人が大学受験をしたり、有名人の子どもが中学や高校の受験をしたりするやつだ。もしかして、アルバイトってこのことだったのだろうか。
「ご家族の許可はとれています。今年の夏から勉強を開始して難関高校を受験してもらいます。当然プライベートな時間がなくなってしまいますがよろしいでしょうか?」
「カメラで撮影されるってこと? わたしみたいな素人を映しても面白くないと思うけれど」
「そんなことはございません。ふつうの女の子の方がいいくらいです。ただ覚悟を決めていただかないと合格は狙えないのですよね。楽して合格したい、みたいなことはやはり無理です。わたくしどもとしましても、中村さんが勉強を通して成長する姿を放送することに意味を感じておりまして」
「それはいいけど、具体的になにやるの?」
「撮影は専門スタッフがしていますので安心してください。すでに撮影は始まっております」
マジ!? 怖すぎるんだけど。
っていうか、恥ずかしい。わたしはふつうの女子中学生なんだよ!?
「それでは、これから家庭教師の中学生があなたの家で一緒に暮らすことになります。彼もいろいろとワケがありましてね。こんな仕事を引き受けたのです」
インターホンが鳴った。はい、と扉を開けるとクラス1のイケメンがカバンひとつだけもって、捨てられた子犬みたいにわたしのことを見つめている。
「日比谷(ひびや)くんがなんでこんなところにいるの?」
我ながら間抜けな質問だと思う。
お人形さんのような整った小さな顔と丸く愛らしい瞳がずっとわたしをみている。
「なんでって……それがバイトだからに決まっているだろう。これから半年でお前をトップクラスの高校に合格させないといけないんだ。だというのに、そっちはずいぶんとのんきだな? 中村?」
呼び捨てである。親しいからではなく、どこかトゲがある言い方。まるで仕事でなければ会話をしたくない、そんな雰囲気。
もっとも、3年間同じクラスで会話をしたことはほぼない。
日比谷くんはモデルをしながら勉強もしていて、学年1位、2位を争う天才だ。それに比べて、わたしはクラスのビリから1位、2位を争っている。
それでは会話の接点などあるはずがない。
とはいえ、日比谷くんはモテるが、浮いた話は聞いたことがない。というか、あまり友達がいないタイプかもしれない。頭が良くてイケメンって、話しかけにくいからかな?
何人かチャレンジしたり、告白してみたりしたらしいが、ことごとく失敗してきたらしい。
かくいう自分も、日比谷くんの隠れファンだ。彼が小学生時代にテレビに出ていた番組で一目惚れして、まさか同じ中学だったとは驚いた。噂では、わざわざ事務所に近い公立中学に引っ越して来たとか、いろんな話がある。
「これから受験まで一緒に暮らすんだ。それともやめるのか?」
「やるよ! わたし、めちゃ勉強したい!」
一緒に暮らす、その言葉に反応したことは言うまでもない。男の子がいたら色々と気楽に出来ないことも増えそうだけれど、上手くやれば日比谷くんと仲良くなるチャンスだし、受験勉強をしながら金まで稼げるってこんなに美味しい話はない。
「そうか。マネージャーには話はつけておいた。明日にも参考書や必要なものが届くだろう。と、まず、その前に簡単な質問をさせてもらう。小学生の勉強もしてないとは本当か?」
「いや、読み書き計算はできるよ」
「……あまり期待しないでおこう。とりあえず、夏休みの間に中学3年間で覚えるべきことを全部復習、そして予習してもらう」
「終わらせるってこと?」
「そうなるな……このまま寝るのももったいないから、ひとつ勉強しておこう」
日比谷くんはそう言って100円玉を取り出した。
「コインが表になる確率はいくつかわかるか?」
「表か裏の2通りしかないのだから、確率は1/2ではないかな」
「そうだな。正解だ。これで中学で習う確率は終わりだ」
いやいや、簡単すぎるよ。
「へぇ、もっとやりたいって顔じゃないか。他によく出題されるのはサイコロやトランプだな。1から13までの数字が書かれたトランプで偶数(ぐうすう)になる確率はいくつかわかるか?」
「……偶数ってなに?」
ひどく簡単な質問をしてしまったような気がするのだけれど、日比谷くんは勉強に関しての質問は全くバカにする様子がない。
「2、4、6……みたいに2で割り切れる数が偶数って言うんだ。奇数(きすう)っていうのは、1、3、5……みたいに2で割り切れない。整数(せいすう)っていう1、2、3……の数をそう区別してるんだ」
なんだかややこしいな。
まあ、いいや。
1から13までの数字の偶数だから、2、4、6、8、10、12の6通り。
トランプは1から13までの数字どれもが出る場合、つまり13通りあるから……。
「6/13かな」
「正解だ。頭がいいじゃないか。無意識に考えているのだろうけれど、確率は『起こる場合の数』÷『全ての場合の数』なんだ。コインなら表がでるのは1通り、全ての可能性は表か裏の2通りあるか、1÷2=1/2と表される」
確率って簡単じゃないか。
「高校受験に限れば、ひとつずつ数えていくという方法もありだ。樹形図(じゅけいず)という図を書いてもいい。今回は最後に実際の入試問題を解いてみよう」
⭐︎都立高校入試問題改題⭐︎
1から5までの数字が書かれたカードがあります。
(1)この中から1枚を選ぶのは5通りです。では、2枚選ぶ場合は全部で何通りありますか?
(一度選んだカードは戻さないものとします)
(2)選んだ2枚のカードの積が9未満になるのは全部で何通りありますか?
(一度選んだカードは戻さないものとします)
(3)それでは、選んだ2枚のカードの積が9未満になる確率はいくつですか?
(一度選んだカードは戻さないものとします)
「入試問題は難しいね。そもそも積(せき)とか未満(みまん)ってなに?」
「そうだろうと思ってこの問題を最初にもってきた。積とはかけ算のこと。未満は、9未満であれば9は含まない。この場合なら1〜8だな。他には9以上という言葉がある。以上の場合は9を含む。以上と以下はその数を含む、未満は含まないということを覚えておかないとそもそも問題文が読めない。これがよく言う、国語が苦手だとそもそも問題文がわからないという現象だな」
全く勉強してこなかったから知らないことがいっぱいありそうだけど、大丈夫かな。
「そんな顔をするな。この問題文はかなりレベルが高い問題だが、覚えることはそんなに多くない。慣れだよ、で、問題文が理解できたところで解けそうか?」
「まず、起こりうる全ての場合の数は5枚最初に選ぶから5通り、次が1枚減った4枚から1枚を選ぶから4通りで……5通り×4通りの20通りが正解じゃないかな。でも、かけていいの?」
「それはかけていいんだよ5×4が起こる場合のすべての通りさ。(1)は20通りが答えだ」
「いまいち自信がないな」
「ひとつずつ数えてみればわかる。ちゃんと20通りあるのさ」
「いや、だからなぜ?」
「なぜかと言われると5つの番号にたいして次の番号が4通りあるから5×4となる」
「じゃあ、9未満の場合は何通りある?」
1と2、1と3、1と4、1と5、2と3、2と4の6通りとそれぞれ反対の場合、つまり、2と1、3と1、4と1……めんどくさいから6×2=12通りでいいや。あ、こういうことか。さっきの5×4=20通りも同じ理屈。
「わかったよ、12通りでしょ」
「すごいな。想像よりずっと賢いじゃないか。(2)の答えは12通りだ」
よし、この問題も解けたっ!
「答えは(12通り)÷(20通り)=12/20でしょ!」
「正解だけど、それじゃあテストだと△だな。数学は美しい答えにしないといけない」
美しい答えってなんだ?
「なんだかわからないという顔だな、数学の楽しさは後々語るとして……」
語るのか、日比谷くんの意外な一面を見た気がする。
「綺麗な答えにしたい。約分(やくぶん)してやって、4で上と下の数を割ってやると3/5だな。これが正解だ。当たり前だが、3/5と6/10は等しいし、12/20とも等しい。でもこれだと無数に答えがあるし、綺麗じゃないだろ?」
それはなんとなくわかる。3/5のほうが答えとして綺麗だよね。3億/5億とか書かれたら、先生も困るだろう。最悪の場合、せっかく正解しているのに罰にされるかもしれない。
「おお、わたしにも入試問題が解けた! ちょっと感動!」
「そうだな、(1)と(2)が解けたし、(3)もあと少しでできたな。このレベルの問題がスラスラ解けるなら自信を持って大丈夫だ。大抵の高校には受かる。あとはたくさん問題集を解いて確率に慣れるだけだな」
解答
(1) 20通り (2)12通り (3)3/5
いじめられたくない。
みんなから一目置かれたい。
そんなことをぼんやりと思いながら、何の努力もせずに夏休みを過ごしていると、スマホにメールが着ていた。
『あんたのことを思って夏休みにバイトを入れておいてあげたよ』
姉は地元の市役所で働いており、部活も勉強も学校生活もイマイチなわたしを心配して、こうしてお節介をしてくれる。
「あのー、ここに住んでいる中村平子(なかむらひらこ)さんはいらっしゃいますか?」
謎の声。若い女性の声にびっくりした。
平凡な女子中学生のわたしは玄関のドアを開けるが、そこには誰もいない。
「そこじゃありません。ここですよ。ここ」
部屋の中から声がする。気づかれずに中に入ったのか?
怖くなる。
まさか、お化け?
そもそも夜中の9時だ。家には誰もいない。父親はおらず、母親も滅多に家に帰ってこない家庭。
小学生の頃は寂しくて泣いていたが、今では好きなだけスマホがいじれて、楽しいし、思春期の女子としては、一人の方が気楽だったりもする。
「からかってないよね。まさかイタズラ?」
「違いますよ。スマホを見てください」
スマホの中には、女性が映っていた。
「あなたが今回の企画の参加者ですね」
姉と同い年くらいのスーツ姿の女性は抑揚のない声で淡々とわたしに話しかけてくる。
それが、逆に会話しやすい。何故なら、わたしは他人と話すことが苦手だからだ。
「企画ってなんですか?」
「小学校の勉強もまともにしていない子供がどこまで成績を上げられるのか、という企画です」
そういえば、そういう企画をテレビやネットで見たことがある。芸能人が大学受験をしたり、有名人の子どもが中学や高校の受験をしたりするやつだ。もしかして、アルバイトってこのことだったのだろうか。
「ご家族の許可はとれています。今年の夏から勉強を開始して難関高校を受験してもらいます。当然プライベートな時間がなくなってしまいますがよろしいでしょうか?」
「カメラで撮影されるってこと? わたしみたいな素人を映しても面白くないと思うけれど」
「そんなことはございません。ふつうの女の子の方がいいくらいです。ただ覚悟を決めていただかないと合格は狙えないのですよね。楽して合格したい、みたいなことはやはり無理です。わたくしどもとしましても、中村さんが勉強を通して成長する姿を放送することに意味を感じておりまして」
「それはいいけど、具体的になにやるの?」
「撮影は専門スタッフがしていますので安心してください。すでに撮影は始まっております」
マジ!? 怖すぎるんだけど。
っていうか、恥ずかしい。わたしはふつうの女子中学生なんだよ!?
「それでは、これから家庭教師の中学生があなたの家で一緒に暮らすことになります。彼もいろいろとワケがありましてね。こんな仕事を引き受けたのです」
インターホンが鳴った。はい、と扉を開けるとクラス1のイケメンがカバンひとつだけもって、捨てられた子犬みたいにわたしのことを見つめている。
「日比谷(ひびや)くんがなんでこんなところにいるの?」
我ながら間抜けな質問だと思う。
お人形さんのような整った小さな顔と丸く愛らしい瞳がずっとわたしをみている。
「なんでって……それがバイトだからに決まっているだろう。これから半年でお前をトップクラスの高校に合格させないといけないんだ。だというのに、そっちはずいぶんとのんきだな? 中村?」
呼び捨てである。親しいからではなく、どこかトゲがある言い方。まるで仕事でなければ会話をしたくない、そんな雰囲気。
もっとも、3年間同じクラスで会話をしたことはほぼない。
日比谷くんはモデルをしながら勉強もしていて、学年1位、2位を争う天才だ。それに比べて、わたしはクラスのビリから1位、2位を争っている。
それでは会話の接点などあるはずがない。
とはいえ、日比谷くんはモテるが、浮いた話は聞いたことがない。というか、あまり友達がいないタイプかもしれない。頭が良くてイケメンって、話しかけにくいからかな?
何人かチャレンジしたり、告白してみたりしたらしいが、ことごとく失敗してきたらしい。
かくいう自分も、日比谷くんの隠れファンだ。彼が小学生時代にテレビに出ていた番組で一目惚れして、まさか同じ中学だったとは驚いた。噂では、わざわざ事務所に近い公立中学に引っ越して来たとか、いろんな話がある。
「これから受験まで一緒に暮らすんだ。それともやめるのか?」
「やるよ! わたし、めちゃ勉強したい!」
一緒に暮らす、その言葉に反応したことは言うまでもない。男の子がいたら色々と気楽に出来ないことも増えそうだけれど、上手くやれば日比谷くんと仲良くなるチャンスだし、受験勉強をしながら金まで稼げるってこんなに美味しい話はない。
「そうか。マネージャーには話はつけておいた。明日にも参考書や必要なものが届くだろう。と、まず、その前に簡単な質問をさせてもらう。小学生の勉強もしてないとは本当か?」
「いや、読み書き計算はできるよ」
「……あまり期待しないでおこう。とりあえず、夏休みの間に中学3年間で覚えるべきことを全部復習、そして予習してもらう」
「終わらせるってこと?」
「そうなるな……このまま寝るのももったいないから、ひとつ勉強しておこう」
日比谷くんはそう言って100円玉を取り出した。
「コインが表になる確率はいくつかわかるか?」
「表か裏の2通りしかないのだから、確率は1/2ではないかな」
「そうだな。正解だ。これで中学で習う確率は終わりだ」
いやいや、簡単すぎるよ。
「へぇ、もっとやりたいって顔じゃないか。他によく出題されるのはサイコロやトランプだな。1から13までの数字が書かれたトランプで偶数(ぐうすう)になる確率はいくつかわかるか?」
「……偶数ってなに?」
ひどく簡単な質問をしてしまったような気がするのだけれど、日比谷くんは勉強に関しての質問は全くバカにする様子がない。
「2、4、6……みたいに2で割り切れる数が偶数って言うんだ。奇数(きすう)っていうのは、1、3、5……みたいに2で割り切れない。整数(せいすう)っていう1、2、3……の数をそう区別してるんだ」
なんだかややこしいな。
まあ、いいや。
1から13までの数字の偶数だから、2、4、6、8、10、12の6通り。
トランプは1から13までの数字どれもが出る場合、つまり13通りあるから……。
「6/13かな」
「正解だ。頭がいいじゃないか。無意識に考えているのだろうけれど、確率は『起こる場合の数』÷『全ての場合の数』なんだ。コインなら表がでるのは1通り、全ての可能性は表か裏の2通りあるか、1÷2=1/2と表される」
確率って簡単じゃないか。
「高校受験に限れば、ひとつずつ数えていくという方法もありだ。樹形図(じゅけいず)という図を書いてもいい。今回は最後に実際の入試問題を解いてみよう」
⭐︎都立高校入試問題改題⭐︎
1から5までの数字が書かれたカードがあります。
(1)この中から1枚を選ぶのは5通りです。では、2枚選ぶ場合は全部で何通りありますか?
(一度選んだカードは戻さないものとします)
(2)選んだ2枚のカードの積が9未満になるのは全部で何通りありますか?
(一度選んだカードは戻さないものとします)
(3)それでは、選んだ2枚のカードの積が9未満になる確率はいくつですか?
(一度選んだカードは戻さないものとします)
「入試問題は難しいね。そもそも積(せき)とか未満(みまん)ってなに?」
「そうだろうと思ってこの問題を最初にもってきた。積とはかけ算のこと。未満は、9未満であれば9は含まない。この場合なら1〜8だな。他には9以上という言葉がある。以上の場合は9を含む。以上と以下はその数を含む、未満は含まないということを覚えておかないとそもそも問題文が読めない。これがよく言う、国語が苦手だとそもそも問題文がわからないという現象だな」
全く勉強してこなかったから知らないことがいっぱいありそうだけど、大丈夫かな。
「そんな顔をするな。この問題文はかなりレベルが高い問題だが、覚えることはそんなに多くない。慣れだよ、で、問題文が理解できたところで解けそうか?」
「まず、起こりうる全ての場合の数は5枚最初に選ぶから5通り、次が1枚減った4枚から1枚を選ぶから4通りで……5通り×4通りの20通りが正解じゃないかな。でも、かけていいの?」
「それはかけていいんだよ5×4が起こる場合のすべての通りさ。(1)は20通りが答えだ」
「いまいち自信がないな」
「ひとつずつ数えてみればわかる。ちゃんと20通りあるのさ」
「いや、だからなぜ?」
「なぜかと言われると5つの番号にたいして次の番号が4通りあるから5×4となる」
「じゃあ、9未満の場合は何通りある?」
1と2、1と3、1と4、1と5、2と3、2と4の6通りとそれぞれ反対の場合、つまり、2と1、3と1、4と1……めんどくさいから6×2=12通りでいいや。あ、こういうことか。さっきの5×4=20通りも同じ理屈。
「わかったよ、12通りでしょ」
「すごいな。想像よりずっと賢いじゃないか。(2)の答えは12通りだ」
よし、この問題も解けたっ!
「答えは(12通り)÷(20通り)=12/20でしょ!」
「正解だけど、それじゃあテストだと△だな。数学は美しい答えにしないといけない」
美しい答えってなんだ?
「なんだかわからないという顔だな、数学の楽しさは後々語るとして……」
語るのか、日比谷くんの意外な一面を見た気がする。
「綺麗な答えにしたい。約分(やくぶん)してやって、4で上と下の数を割ってやると3/5だな。これが正解だ。当たり前だが、3/5と6/10は等しいし、12/20とも等しい。でもこれだと無数に答えがあるし、綺麗じゃないだろ?」
それはなんとなくわかる。3/5のほうが答えとして綺麗だよね。3億/5億とか書かれたら、先生も困るだろう。最悪の場合、せっかく正解しているのに罰にされるかもしれない。
「おお、わたしにも入試問題が解けた! ちょっと感動!」
「そうだな、(1)と(2)が解けたし、(3)もあと少しでできたな。このレベルの問題がスラスラ解けるなら自信を持って大丈夫だ。大抵の高校には受かる。あとはたくさん問題集を解いて確率に慣れるだけだな」
解答
(1) 20通り (2)12通り (3)3/5



