『鳥山さん、301のスイートの
掃除に橘さんと行ってください。』
『Passage du vent』に勤め始めて
1週間が過ぎようとしていた。
あの初日の事件から、日を改めて
面接を申し込み緊張して来たものの、
日髙支配人は顔色一つ変えずで、
まるで初対面のような対応をされた。
まさか受かると思ってなかったから、
通達のメールが届いた時にはかなり
驚いたんだよね‥‥
『鳥山さんスイート初めて?』
「はい、中に入れるのが楽しみです。」
『そっちの楽しみ?面白いなぁ。』
全ての部署を廻るのはここのルールらしく、まずは基本の清掃やルームメイキングを2週間。次は庭仕事などのガーデニング。厨房の補助やフロア管理を得て、
ようやくホテルの顔となるフロントを
学べるようだ。
何が向いてるのか、やりたいのか
決まっていない私には、全てを体験
出来るのはとても嬉しいことだった。
柔らかいベージュの膝丈のスカートに
白のブラウスを合わせ、襟元には男女同じの蝶ネクタイを付けている。
清掃する時は、白のフリルエプロンを
身につけるのもとてもオシャレだ。
スイートルームが一室。
セミスイートも一室。
あとは標準サイズの客室が8部屋と
合計10室と部屋数はかなり少ない
ホテルだが、小さい分、細かい所まで
目が行くし、大手に劣らないおもてなし
に日々学びと感動を覚えている。



