周りに誰もいないか辺りを見回した後、私はスマホでネットを確認した。
そして推しの作家のSNSが更新されていないことを確認すると、すぐにポケットにしまう。
私達の通う中学校ではスマホは禁止されているんだけど、みんなこっそり持って来てるんだ。
ポケットの中に視線を落として、誰にもバレないよう気をつけながらスマホの画面を触る。
もしメールが来たときに音が鳴ると困るから、音を消してあったんだ。
設定を音アリに変更しなおして、スマホゲームアプリを開いた。
ポケットに手を入れてスマホを弄っていると、スマホが震えたのが分かった。
【☆キイチゴ出版の本を二冊買うと、スペシャルグッズプレゼント☆】
スペシャルグッズの内容を確認すると、すぐさまそのメッセージを消す。
だってこんなグッズ、いらないし。
キイチゴ出版も、もっと良いグッズ考えればいいのになぁ……。
むぅと唇を尖らせていると、門を出たところで、目を見開いて立ち止まった。
……今日、家で読むつもりだった本……教室に置いたままだっ……。
ゼーゼーと息を切らして教室に戻ってくると、数名の一軍女子が騒いでいた。
「陰キャってゆーの?根暗な人ってウチのクラスけっこーいっぱい居るよね〜」
「分かるぅ。他のクラスの人にナメられるし、最悪〜。 てゆーか、黒埜 瞳とか超暗いしさぁ」
「マジそれー!!変な本ばっかり読んでてさ?しかもコミュ力終わってるし〜」
……うるさいなぁ……今、本人が聞いてるのに。 馬鹿みたい。
自分が馬鹿にされたことよりも、手元のこの本が“変な”と言われたことに腹が立った。
私が大好きなこの本は、wolfさんという作家のデビュー作で、私の一番のお気に入り。
なのに、あの女子達……。
「……変な本じゃないし。一番凄いのに……」
そうぼやいて本を見つめていると、上から高飛車そうな声が降ってきた。
「そーんな本読んでて面白いのぉ?黒埜さんが青春するために、私が、超良い仕事あげる〜」
へ……と首を傾げている隙に、下品な笑い声を響かせた女子たち。
名前は、えっと……もとから覚えてないな、そういえば。
拭えない違和感を振り払おうと思いながら、じっと彼女らを見つめた。
「きゃはははっ。椿 さいてーじゃ〜ん」
「それな〜黒埜イジメちゃカワイソーだよ椿ぃ」
「えっと……あの……なんのこと……」
話の中心にいながらも取り残された私は、おずおずと尋ねた。
「あのねぇ、クラス会のことでさぁ〜」
「あたし達がやりたいって言ったんだけど、企画考えんのダルいんだよね〜」
「てわけだからぁ。やってくれるよねーっ?」
「えぇー……」
彼女らの言葉に、眉間にシワを寄せ、思いっきり不機嫌な表情をしてみせる。
「え、良いよね?ありがとーっ♡」
「え」
勝手に話を進めるクラスメイトに、ほんの少し、悪意が芽生えた。
「……企画は、私が好きなものにして、良いですよね?」
「はぁー?まぁ考えるのヤだし良いよぉ」
どうせ、下手だったら文句つけるくせに。
面倒だって言えば、学校生活はおしまい、イジメを受け続けるんだろうな。
「分かりました」
……どうせなら、徹底的に一軍女子達に不利な企画にしよう。
「マジー!?黒埜さいこー。 どーせなら、ちゃんとしたの作ってよね〜」
「そうそう。地味で根暗で陰キャな黒埜も、こーゆーことなら利用できるっしょー」
「あははっ、椿サイテーじゃん! じゃーねー。ウチら遊んでくるけど、黒埜頑張れー♡」
仕事を押し付けて、言いたいことだけ言って教室から出ていった女子組。
「あーあ……あいつらウザい……カースト上位だからって、何やってんだろ……」
本人に言ったら取り巻きの男子に殺されそうな台詞。
それをつい、悪意丸出しで吐き捨てた。
もともと、陰キャだからといって一軍にヘコヘコする義理もないんだから。
一人になった教室で、あの女子達の机を睨みつけた。
あの人たち、何考えてるんだろ……どうせ、“あの人”のことも知らないよね。
あーあ……人生損してるよ……世界で一番凄い人なのに……。
可哀想だなぁ…………同情しちゃうよ。
―――だって、あの人の価値を知らない人間なんて、生きてる意味ないもんね。
あっ、そうだ……。
頭の中に、雷が降ってきたような感覚がした。 良い案を思いついたんだ。
―――クラス会の企画、ゲームにしよう。
“一番凄い人”を知ってる人だけが残れるゲームだ。
間違えた代償は、自らの命で支払ってもらおうかな。俗に言うデスゲームってやつ。
「これに決めた!」
『一番凄いのだーれだ?』
そう聞いて、不正解が出れば相手はThe endの企画。
必要なのは、周りに連絡を取られないようにすること。 簡単だよ……。
一人にっこりと笑い、当日、愚かな女子達を殺れるのを待ち望んだ。
そしてその翌日、立て付けの悪い扉の前で、ゴクリと息を呑んだ。
あの人達のことだし、企画について絶対何か言われるよ……。
意を決して、ガラガラッと扉を動かす。
予想通り、陽キャ軍が笑いながらこちらに歩いて来た。
「おはよぉー! 黒埜〜もちろん考えてるよね〜、企画ぅ」
「はい。 準備も全部、自分でやりますから」
「えーっ! 超助かるんですけどぉ」
ニタニタ笑っている女に向かって、微笑んだ。
「……ちゃんと分かっていれば、何も心配いりませんから」
「分かってれば……?訳分かんな〜い。 でもまぁ、あとヨロシクぅ〜」
「えぇ。任せてください」
まじー?超さいこ〜……なんて言いながら、こちらに背を向けた女子達。
その隙にこっそり、去っていく女子達に向けてニンマリと笑った。
……後悔するのはそっちだよ、一軍メンバー。
そしてゲームの開催は、二十日後に迫っていた。
もうちょっと、もうちょっとで私の計画は成功するんだ。
だって……素敵な素敵な、とっても楽しいデスゲームまで、あとたったの二十日だけ―――。



