華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~



 ……それが、ちょうど一年前の今日のこと。
 あれよあれよと芹香は屋敷へと招き入れられ、予想だにしていないほどの歓待を受けた。
 上等な部屋を当てがわれ、上等な絹の着物や装飾品に加え毎日の食事も豪奢なもので、これまで貧しい暮らしを強いられてきた芹香は戸惑うばかり。
 その日にわかったのは、屋敷に暮らしているのは出迎えてくれた二人と子狐一匹だけで、少年は世津(せつ)、女性は葉奈(はな)、子狐は紫苑(しおん)ということ。人間かと思った二人の頭には、三角形のふさふさな狐の耳が生えていて、御身替わりした霊狐に仕えている身なのだという。
 さらに、村では霊狐の一族は妖狐と呼ばれて凶悪な妖として認識されていたが、それは大きな間違いだった。
 彼らからは、歪んだ気など微塵も感じさせないどころか清廉で高貴な気しか感じない。聞けば霊狐の一族は妖などではなく、神に近い神聖なる存在だと葉奈から教えられた。
 そしてその神聖なる存在の霊狐の嫁が芹香なのだと告げられたから驚きだ。
 だが、肝心の霊狐の姿はどこにもなかった。
 どこにいるのか、いつ会えるのかと聞いても二人とも言葉を濁すばかりで埒があかないため、芹香は途中から頭領のことは頭から消し去って、ここでの暮らしを満喫することに決めたのだった。
 畑仕事をしたり、季節の手仕事をしたり。溌剌な世津と母のように穏やかで優しい葉奈と、芹香によく懐いてくれた子狐の紫苑との暮らしはこの上なく平和で幸せだった。

 ──ずっとここで暮らせたらどれほど幸せか。

 そう思うのに、時間はかからなかった。そして、時を重ねるに連れて、その思いは強くなる一方で、自覚する度に芹香の心は暗く沈んでいく。