華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

 村の言い伝えは、子どもの頃から耳にタコができるくらい聞かせられるものだったが、妖狐など見たこともなかった芹香には御伽噺でしかなかった。だから、本当に村に曼珠沙華が咲き乱れるとも、まさかまさか自分が華狐に選ばれるとも夢にも思わなかった。
 だけどそれらは全て現実に起こったことで、自分のうなじには今もくっきりと曼珠沙華が咲いているのを感じる。ここに近づくにつれて、うなじがほんのりと温かくなるのを芹香は気付いていた。
 村の習わしであるのだから従うしかないのだ。
 生まれも育ちも一宝村の芹香にとって、それに抗うことなどできやしない。
 そこに追い打ちをかけるように、自分には家族と呼べる家族もすでにいなかった。
 一緒に暮らしていた叔父夫婦は、芹香のことなど召使程度にしか思っておらず手ひどい扱いを受けてきた。
 五年前、元々名家の当主だった芹香の両親が亡くなった途端屋敷に上がり込み、芹香を離れにある納屋に追いやった。
 口を開けば、親を亡くした芹香に情けをかけてやっているのだ、と恩着せがましいことしか言わない。
 昨日、芹香が華狐に選ばれたと知った時ですら、自分達の娘の加代(かよ)が選ばれなくてよかった、と心の底から安堵するばかりか、村から支払われる見舞金の額がいくらなのかと気を揉んでいたくらいだ。
 金と欲と見栄にまみれたあの者たちを、芹香は一度たりとも家族だと思ったことはなかった。

 村に未練のない自分が選ばれたのは、本当によかった。
 自分と同じ年ごろの志乃は、つい先日幼なじみと婚約をしたところだったし、舞子は名家の次男とお見合いするのだと喜んでいた。
 だから、自分でよかった。
 それは意地でも強がりでもなく、心の底からの思いだった。五年前、愛する両親と共に、生きる意味も失ったから。

 ──カサッ