華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

「私……華狐として、紫苑の役にたてなくなっちゃって……ごめんなさい……」

 自分には、もう華狐としての資格がない。
 憎しみに支配されて、霊力を使い切ってしまった己の愚かさを謝った。

「だから、」
「──誰がなんと言おうが、俺の華狐は芹香しかいない」

 芹香の言葉を言わんとすることを察したように、厳しい顔つきで紫苑が言う。

「でも、私にはもう力が……」

 目の前の紫苑は、その整った顔を苦し気に歪めた。まるで傷ついたような顔をしていた。

「芹香は……ここに……俺のそばにいるのが嫌か?」

 嫌なはずがない。
 ここには、芹香が失ったものがあった。
 家族のように温かい紫苑たちと、絶えない笑顔と優しさ。同じ時を過ごす内に、いつしか彼らは芹香にとって失いたくないと思える、代えのきかない存在になっていた。

 しかし、それを素直に口にだすことはどうしても憚られた。

 浮かんでくるのは、屋敷に訪れた霊狐の一族の人たちの顔。
 みんな一心に、「霊狐を支えてくれ」と華狐の芹香(・・・・・)に願っていた。霊力を失った今、自分には紫苑を支えることはきっとできないだろう。それをわかった上で己の望みを口にするのは、裏切りではないだろうか。

 逡巡して言葉が出ないでいると、紫苑の手が伸びてきて芹香の手を包む。するりと触れる肌は滑らかで温かくて、思わず握り返したくなる。
 涙の溜まった目で見上げると、琥珀色の瞳と視線が合わさった。ふるふると揺れる視界の中でも、その瞳に悲痛な色が見て取れて苦しさが増す。
 紫苑を傷つけてしまった。