華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~




 叔父と鵺の起こした事件から十日が経った。
 婚儀は芹香の心身の回復を優先して延期されていた。

 芹香は、葉奈と世津に甲斐甲斐しく世話をされて順調に回復していき、噛まれた首の傷も塞がって痛みももうない。
 芹香が療養している間も、紫苑は事件のことで忙しく屋敷を空けることが多かった。一日の中で顔を合わせるのは、朝食の時間だけという日が続いていた。

 そんなある日、久しぶりに夕食を共にした後「話がある」と言われ、芹香は紫苑を自室に招いた。座敷に向かい合って座る二人の間には、少しだけ重苦しい空気が漂っていた。
 毎日必ず朝食は一緒に取って顔を合わせていたが、こうして二人きりで話すのは久しぶりで、ほんの少し緊張しているせいだ。身の置き場がなく、視線を彷徨わせていると、紫苑が先に口を開いた。

「芹香の叔父たちと鵺の処遇が決まった」

 久しぶりに耳にしたその言葉に、芹香の体が強張る。それを見て「聞きたくなければ、無理には話さない」と紫苑が優しく言う。少し考えた後、芹香は「聞かせてほしい」と紫苑をまっすぐ見つめた。

 本当は、もう二度と考えたくなかった。だけど、両親の死を受け止めるためにも、きっと自分は聞かなければならない。自分で自分を奮い立たせ、膝の上で手を握りしめて紫苑の言葉に耳を傾けた。

 捕まえた鵺たちは、もう二度と人を襲わないよう血の盟約を交わさせて解放となった。血の盟約とは、お互いの血を以て交わす約束のことで、反故にすると死よりも苦しい制裁がその身に降りかかるものだという。
 亮二たちはというと、帰路の途中で妖怪に襲われて深手を負いながらもどうにか村にたどり着いたが、妖と手を組んで血縁者を殺した罪で亮二と道代は島流しとなり、娘の加代は商家の下働きに出された。
 そう紫苑から聞かされた時、芹香の心には彼らに対してなんの感情も浮かばなかった。然るべき罰を受けたなら、それ以上芹香が願うことはなにもない。

「継ぎ人の行方までは掴めなかった」