華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~




 芹香は暗がりを走っていた。
 はぁはぁと息を切らしながら、家から漏れるかすかな灯りと勘を頼りに目的の場所を目指す。途中何度も足がもつれて体が地を滑り、膝や手や顔から血が滲むのも気にせず立ち上がって走った。
 村の外れにある集会所に着くと、人だかりができていた。その端にいた村人が芹香に気付くと、痛まし気に眉をしかめて首を横に振った。それが意味するところを理解した芹香は全身から血の気が引いていくのを感じて立ちすくむ。それでも、芹香は自身を奮い立たせて、その人だかりに突っ込んでいった。

『芹香だめだ! 見ない方がいい!』
『子どもがみるもんじゃねえ』

 そこにいた顔見知りの村人たちが芹香の体を抑え込む。泣きじゃくり暴れて抵抗するものだから、そのうち羽交い絞めにされてとうとう身動きが取れなくなってしまった。

『いやあっ! 離して! お父さま! お母さまぁぁ!』

 自分の目で確かめるまで、信じられるわけがなかった。信じたくなかった。
 両親が妖怪に襲われて死んだなど。

 だって、両親はほんの数刻前まで、自分と共にいたのだ。
 なのになぜ。

 その日の夕刻、いつの間にか居眠りをしていた芹香は、血相をかいた村人により揺すり起こされ、両親が村の外で遺体で見つかったと聞かされたのだった。

 駆け付けた集会所で両親の姿を見ることは叶わなかったが、その翌日火葬する前に対面が許された。おしろいを塗られて肌の色を整えられ、人形のように眠る二人に縋りついて芹香は泣き叫んだ。村人に引き剥がされて、両親との別れの儀式を終えた。

 唯一の家族だった。
 穏やかで、いつも笑顔の絶えない幸せな家族だった。