二人の背中に亮二の声が届く。振り向けば、少し離れたところに三人の姿があった。
怒涛の展開に、その存在をすっかり忘れていた芹香は息を呑む。言いようのない怒りがまた込み上げてくるのを必死で抑えた。
紫苑の声がもう少し遅かったら、芹香はこの三人を殺すところだった。自分の中に、こんなにも誰かを憎く思う醜い心があることを、知らなかった。我を失い、怒りに支配されて人の命を奪おうとした自分が怖い。
「ここがどこだか知らないんだ。私たちも連れて行ってくれ」
亮二たちの後ろに目を向けると、来た時の歪みはいつの間にかなくなっていた。鵺がいなくなったせいだろうか。この期に及んでそんな頼みをしてくる亮二たちの気が知れなかった。
「連れていく義理などない」と紫苑が冷たく言い放つ。その場の温度が一瞬で下がった。しかし亮二は立ち上がり、こちらに近寄る。
「そ、そんな! 霊狐さまというのは慈悲深い霊獣のはず!」
「妖と手を組み人を死に追いやるなどあるまじき所業。そのような者にかける慈悲など持ち合わせておらん」
「せめて娘だけでもっ! 芹香の霊力がなくなったのなら、我が娘の加代を華狐にいかがです? 娘も少しなら霊力があると鵺が言っておりましたし、芹香などより器量も、」
「黙れ! 誠に豪が深い、深すぎる。そもそも、華狐は霊力の強さだけで選ばれるものではない。たとえ芹香より高い霊力を持っていたとしても、お前の娘は華狐にはなれない」
絶句する亮二に紫苑は畳みかけるように言った。
「此度の顛末、私から村の長に伝える故、沙汰を待つのだな。──まぁ、無事に村に帰れたらの話だが」
言い終える前に紫苑の体は芹香を抱えたまま浮遊する。洞窟内に響く亮二たちの悲痛な叫びから逃れたい一心で芹香は、ぎゅっと目を瞑り紫苑の胸に顔を寄せた。ひだまりの香りと紫苑のぬくもりに包まれ安堵した瞬間、とてつもない疲労感に襲われ気を失うように眠りについた。
怒涛の展開に、その存在をすっかり忘れていた芹香は息を呑む。言いようのない怒りがまた込み上げてくるのを必死で抑えた。
紫苑の声がもう少し遅かったら、芹香はこの三人を殺すところだった。自分の中に、こんなにも誰かを憎く思う醜い心があることを、知らなかった。我を失い、怒りに支配されて人の命を奪おうとした自分が怖い。
「ここがどこだか知らないんだ。私たちも連れて行ってくれ」
亮二たちの後ろに目を向けると、来た時の歪みはいつの間にかなくなっていた。鵺がいなくなったせいだろうか。この期に及んでそんな頼みをしてくる亮二たちの気が知れなかった。
「連れていく義理などない」と紫苑が冷たく言い放つ。その場の温度が一瞬で下がった。しかし亮二は立ち上がり、こちらに近寄る。
「そ、そんな! 霊狐さまというのは慈悲深い霊獣のはず!」
「妖と手を組み人を死に追いやるなどあるまじき所業。そのような者にかける慈悲など持ち合わせておらん」
「せめて娘だけでもっ! 芹香の霊力がなくなったのなら、我が娘の加代を華狐にいかがです? 娘も少しなら霊力があると鵺が言っておりましたし、芹香などより器量も、」
「黙れ! 誠に豪が深い、深すぎる。そもそも、華狐は霊力の強さだけで選ばれるものではない。たとえ芹香より高い霊力を持っていたとしても、お前の娘は華狐にはなれない」
絶句する亮二に紫苑は畳みかけるように言った。
「此度の顛末、私から村の長に伝える故、沙汰を待つのだな。──まぁ、無事に村に帰れたらの話だが」
言い終える前に紫苑の体は芹香を抱えたまま浮遊する。洞窟内に響く亮二たちの悲痛な叫びから逃れたい一心で芹香は、ぎゅっと目を瞑り紫苑の胸に顔を寄せた。ひだまりの香りと紫苑のぬくもりに包まれ安堵した瞬間、とてつもない疲労感に襲われ気を失うように眠りについた。

