華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

 瞬時に反応した紫苑が、空を駆ける。
 その隙に、鵺が「走れ!」と叫び、洞窟内にいた鵺たちが一目散に頭上に開いた穴を目指して岩肌を駆けのぼっていく。
 芹香を投げた鵺も、人から妖怪の姿に変えて群れに紛れてしまった。

「んっ」

 ぼふっと、芹香は無事に紫苑に受け止められ、苦しいほどにきつく抱きしめられた。芹香、芹香、と何度も名前を呼ぶ紫苑の声が、芹香の胸を痛いくらいに締め付ける。
 それと同時に、大好きなひだまりの香りがして、張りつめていた心がほぐれていく。応えるように、芹香も紫苑の名を呼びその首ったけに腕を回してしがみついた。
 もう二度と触れられないと思ったぬくもりが腕の中にある。ただそのことに安堵して、ぬくもりを噛みしめた。

「首を見せてくれ。痛むか? ほかに怪我は?」

 ゆっくりと地面に降り立ち、しがみつく芹香を優しく下ろすと、噛まれた傷跡に触れる。うっ血したそこは見るからに痛々しく、首を反っただけで引きつるような痛みが走った。

「すまなかった、芹香。もっと早く助けていればこんな……」
「私は、大丈夫……。黙って村に行った私が全部悪いの……ごめんなさい。──それより鵺が」
「気にするな、洞窟の外で俺の配下たちに取り囲まれているはずだ」
「紫苑、ごめんなさい……私……華狐なのに、霊力が……」
「話は後にしよう。それより先に傷の手当だ。里に帰る」

 紫苑の言葉に頷くと、体がひょいと浮いた。再び紫苑の腕に抱きかかえられたのだ。

「し、紫苑、私歩けるわ」
「飛んで帰る、行くぞ」
「──ま、待ってくれ!」