華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

 紫苑はあの日、芹香に華狐として(・・・・・)そばにいてほしいと言った。ならば、その“資格”を失った自分は、紫苑の隣にはいられない。あの、ひだまりのようなあたたかな場所に帰れないのなら、自分にはもう生きていく意味もないと、芹香は絶望する。

「紫苑が新しい華狐を迎えるためにも、私がいたら困るでしょう」

 もういっそのこと鵺の餌になり、両親と同じ道を辿ればいい。
 そうすれば、楽になれる……。これ以上、大切なものを失わずに済む。

 唯一のよりどころだった華狐としての力もなくし、帰る場所も失った芹香は、せめて最期くらい誰の迷惑にもならずに逝きたいと考えた。

「ほかの華狐など要らない! 俺は、芹香を迎えにきた」
「っ……紫苑……」

 紫苑の言葉に、これ以上ないほどの喜びが胸の裡に込み上げてくるのを抑えられない。嬉しさに、芹香の目からはとめどなく涙が溢れて頬を伝った。

 だめなのに。
 私じゃ、もう紫苑の力になれないのに。
 これ以上、優しさを与えないでほしい……。
 縋ってしまいたくなる。

「──やあっ」

 突如、芹香の身体が宙高く放り投げられて放物線を描いた。

「芹香!」