華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

「こちらは死んでも血が吸えれば満足ですからね。──それに、この華狐が死んだところで、霊狐さまが望めば新たな華狐が生まれるのだから一人くらい譲ってくれたって構わないでしょう?」

 鵺の話を聞いて、芹香は「そうなのか」と切なくも安堵した。ここに連れてこられてから、漠然と死を覚悟していた芹香は、華狐としての役目を全うできなかったことだけが心残りに感じていたからだ。紫苑を始め、葉奈や世津、一族のみんなに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。
 だけど、自分が死んでも代わりがいるのなら……。
 霊狐の華狐は自分である必要がないのだから、紫苑たちが困ることはないだろう。

「鵺よ、よく見てみろ。芹香に霊力はもう残っていないぞ」

 鵺が、腕の中でぐったりとする芹香を見て、「ど、どういうことだ……」と動揺した。

「先ほどの怒りによる暴走で大半の霊力を放出したのだろう。わずかな残りもお前に吸われてしまった」

 やはり、さっきなにかがなくなったと感じたのは間違いではなかったのだ、と芹香は理解する。
 霊力を失った自分は、もはや華狐として使い物にならないではないか。

「……鵺……私を、殺して……」

 苦痛に歪んだ芹香の目から、涙が零れる。
 これ以上、自分のことで紫苑たちの手を煩わせるわけにはいかないと思った。

「芹香……な、ぜ……」

 驚愕に目を瞠る紫苑の顔は、薄暗がりの中では芹香には見えなかった。

「芹香は俺の華狐だ、死なせはしない!」
「だって……、霊力のない華狐なんて役に立てないから……」