華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

 妖怪の中から、着物を着た一人の男が現れた。その男から、さっき床の間で感じたのと同じまがまがしさを感じて身体がすくむ。
 とても、よくないもの。
 芹香は直感的にそう認識した。
 その男が芹香に近づいてきた時、亮二が間に入りそれを遮った。

「約束は守ってもらう」
「……手を煩わせおって。──連れてこい」

 しばらくして、妖怪に連れてこられたのは、叔母の道代とその娘の加代だった。その顔は酷く憔悴し、亮二の姿を見て目に涙を浮かべた。

「あなた!」
「お父さまぁっ」
「道代、加代! もう大丈夫だ。さぁ、家に帰ろう」

 そう言って二人の肩を抱いて踵を返した亮二の背中に、「まぁ待て人間」と男の声がかかる。笑いを含んだ声だが、とても低く冷ややかで亮二の足がぴたりと止まった。先ほど通ってきた歪みの前に妖怪達が立ちふさがり、亮二たちの行く手は塞がれてしまった。

「や、約束通り華狐を連れてきたのだから、もう私たちに用はないはずだ! 継ぎ人との契約を破ったらどうなるか忘れていないだろうな!」
「そんなことはわかっているさ。せっかくの縁じゃないか、最後まで見届けていくがいい」

 亮二の言葉で、芹香は状況を理解した。亮二は、この妖怪たちに妻と娘を人質に取られ、華狐の芹香を連れてくるよう命じられていたのだ。どうやってあの手紙を狐に渡すよう頼んだのかまではわからないが、なんらかの伝手を使ったのだろう。あの手紙に書かれていた文字は確かに亮二のものだったから。
 あの屋敷を出てもなお、この人たちは自分を道具として使うのかと芹香は愕然とした。