華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

「叔父さま、この手紙は一体……」
「……本当に生きていたとは」
「い、痛いっ」

 目の前の芹香を見て亮二は瞠目するも、すぐに険しい顔になり芹香の腕を引っ張って門の中へと引き入れた。ほぼ引きずられるようにして、連れていかれたのは客間。

「叔父さま……こ、これは……」

 部屋に入った瞬間に、床の間の壁がおかしいことに気付いた。文字の書かれた札が四方に貼られたそこは、ぐにゃりと空間が歪んでいる。なにかとてつもなくまがまがしい空気を感じて全身に鳥肌が立った。

「ついてこい」
「い、いやっ、やめてください!」

 亮二は躊躇うことなく、その歪んだ空間めがけて突き進んだ。腕を掴まれたまま、芹香も否応なく連れていかれる。そこを潜った瞬間視界が歪み平衡感覚を失う。あまりの恐ろしさと気持ち悪さに目を閉じた。
 時間にすれば、ほんの数秒。身体がずんと重みを取り戻して目を開けると、目の前には全く違う景色が広がっていた。とても広い洞窟のような場所で、頭上の一角に開いた大きな穴から日の光が差し込んでいるため中は薄暗い。慣れてきた目に写った光景に、芹香は息を呑んだ。

「ひっ」

 芹香は、洞窟の中で見たこともない妖怪に取り囲まれていた。顔は猿のように真っ赤で、虎のような手足だが尻尾はまるで蛇という不気味な恰好の妖怪たちが、芹香を見て舌なめずりする。

「いい匂いがする!」
「こりゃ美味そうだなあ」

 聞こえてきた言葉は聞き取れたが、とても人間の声には思えない音をしていた。妖怪たちは、明らかに芹香を獲物として認識していて、あまりの恐ろしさにその場にへたり込んだ。

「──やっと来たか、華狐」

 低く、酷くしゃがれた声が洞窟に響く。