華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

 顔に熱が集まり、たまらず両手で紫苑の胸を押し返したが、びくともしなかった。それどころか、背中にまわった腕に力が増してしまう。

「心の色は霊力に現れるから、芹香の心が時折苦しんでることは気付いていた」
「……そうなの……。紫苑には隠し事ができないわね」
「気付いても、そばにいることしか出来ないのがやるせなかったが、これからは遠慮なく抱きしめられる」

 確かに、ここに来てからも、両親の死や村での辛い出来事を思い出して、悲しみに暮れていたことは何度かあった。思い返せば、そんな時には決まって紫苑がそばにいてくれた。
 紫苑がそれに気付いて寄り添ってくれていたと知って、胸に温かなものが広がっていく。

「気持ちは嬉しいけど……まだ人の姿の紫苑に慣れてないのよ私」

 だからお手柔らかにお願いね、と言えば「いやだ」と駄々っ子のような言葉が返ってきた。

「妻を慰めるのは夫の努めだ。悲しいときや辛いときは、どうか俺を頼ってほしい」

 夫の優しさを、どうして拒めようか。
 例えそれが、義務感からくる優しさだとしても構わない。
 芹香は紫苑の腕の中で、こくりと頷いた。