華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

 芹香は、縁側に寝そべる紫苑の背中をイノシシの毛で作った紫苑専用のブラシで梳かしていく。他の狐たちと会って気付いたことは、紫苑の毛並みは特別だということだった。
 狐にしては細く長めの毛だと思っていたが、比べてみれば歴然の差だった。
 他の狐たちは割と太めの毛で短めで体の線がはっきりしているが、紫苑のそれはどちらかというとふわふわしているせいで輪郭は曖昧だ。それがまた高貴な雰囲気を醸し出して紫苑を美しく魅せている。

 優しく、絡まないように、芹香が丁寧にブラシを頭から首を通り背中まで撫でつけるように何度も梳いていると、紫苑は気持ちよさそうに目を閉じて床に顎をぴたりとつけて寝てしまった。

「あらあら、お疲れだったのは紫苑さまの方だったみたいですね」

 様子を見に来た葉奈と一緒にくすりと笑う。

「紫苑さまったら、芹香さまが居ないとよく眠れない~なんて愚痴っていたんですよ」
「そ、それは……」

 思いもよらぬ所を突かれて、芹香はたじろぐ。それを言われれば、芹香だってそうだった。今まであったぬくもりが突然なくなったのだから、当然寂しさはある。だけど、それとこれとはまったくの別問題。
 紫苑が青年だと知ってしまった今、いくら狐の姿で寝ると言われても今度は芹香が眠れなくなってしまうのは目に見えている。

「まぁ、それももう少しの辛抱ですよって言っているんですけどね……」
「もう少しの辛抱……?」

 意味が分からずに聞き返すと、葉奈は「まぁまぁ」と口に手をやった。葉奈はとても育ちがよさそうだと芹香は前から思っていた。それとなく聞いてもいつもはぐらかされてしまう所も、淑女にしか見えない。

「婚儀を終えれば正式な番になるのですから、寝所を共にするのは当然では?」
「し、寝所!」

 石のように固まる芹香を尻目に、葉奈は気持ちよさそうに眠る紫苑を見て「それにしてもよく眠っていらっしゃるわ」としみじみとつぶやいた。

「よほど芹香さまのおそばが心地いいんでしょうね」
「そうなのかなぁ……」