華狐の嫁入り ~離婚を申し出た途端に旦那様が現れました~

「世津、芹香さまにもいろいろと思うところがおありなんですよ」

 問われた紫苑の代わりに答えたのは葉奈。紫苑は布団の山をただじっと見つめることしかできずにいた。するとその中からくぐもった声で芹香が叫ぶ。

「も、もうっ、紫苑の顔なんか見たくない! 出て行って!」
「……せ、芹香」

 聞こえてきた紫苑の声音に動揺の色を感じ取り、芹香の胸がきしむ。
 本心だけど、本心じゃない。
 だけど今はとてもじゃないけど、紫苑と顔を合わせたくなかったし、冷静に話を聞ける状態でもなかった芹香は、紫苑を拒絶した。

「──ということなので、霊狐さまはご退室願います。世津も」
「えぇー! どうしてぼくまで? 出てけって言われたのは霊狐さまだけだよ?」

 芹香に拒まれた事実を世津から追い打ちをかけられて気落ちした紫苑は、肩をがっくりと落としてしぶしぶ部屋から出ていく。

「世津は霊狐さまのお付きなんですから、ちゃんと役目を果たしなさい」
「ちぇ」

 ややしてトンと襖の閉まる音がして静かになり、芹香はそろりそろりと布団から顔を覗かせた。部屋に葉奈しかいないのを確認すると、芹香は布団を剥いで居住まいをただした。少し眉を下げて微笑む葉奈に少しだけ申し訳なさを感じつつも、芹香は口を真一文字に結ぶ。すると葉奈は、深々と頭を下げた。

「芹香さまを騙すような真似をして申し訳ございませんでした」
「やだ、頭を上げて、葉奈」

 そばに近寄り、葉奈の手を取って頭を上げさせる。
 謝ってほしいわけじゃない。
 葉奈も世津も……紫苑も、理由もなしにこんなことをするような人だとは思えなかった。ただ、ちゃんと納得できる理由を話してほしい、とは思う。
 芹香は、葉奈の言葉を待った。